実際、「手術後、声帯が半分動かなくなって声がかすれました。嚥下障害もあって、食事中にむせることもありました。息切れして、長く歩けなくなったことも困りました」と山田さんは話す。
退院後は、それまで1日20〜40本ほど吸っていたタバコを投薬治療(禁煙治療)によってやめ、昼夜逆転生活もやめたという。生活習慣を改めて、よく歩くようにしていたら、1年後には息苦しさが減り、2年くらいでずいぶんよくなったそうだ。
ただ、現在もすべての後遺症が消失したわけではない。
最初の発症から10年の時を経た今も声が出にくい日もあり、嚥下障害も残っている。興奮すると平衡感覚がおかしくなってめまいがすることも。そんなときは、すぐにしゃがんで倒れないようにしているという。
病を得て1つだけ「いいこと」があった
「だけどね、1ついいこともあったんですよ」と山田さんは言う。
「以前、私は少し短気で怒りっぽいところがあったんですが、大きな病気をしてからは『人は生かされている』と思うようになり、他人にやさしく穏やかに接することができるようになりました。家族も喜んでくれたんじゃないですかね」(山田さん)
総合診療かかりつけ医、きくち総合診療クリニック院長の菊池大和医師によれば、大動脈解離の原因はさまざまで、遺伝も関係するが、高血圧が引き金になることが圧倒的に多いと説明する。
「高血圧は生活習慣病の1つで、喫煙や飲酒、暴飲暴食のほか、不規則な生活を送っていたり、肥満だったりするとなりやすいので、普段から気をつけましょう」(菊池医師)
何しろ大動脈解離は、死亡リスクが非常に高い。約20%の人は病院に到着するまでに亡くなるそうだ。加えて、この病気が恐ろしいのは「血液が回らなくなることで、脳卒中や心筋梗塞などの合併症が起こって、それで命を失うケースもあるところ」だと、菊池医師。
また、太くて長い大動脈のどの部分に亀裂が入るのかで、予後も治療法も違ってくる。
「心臓に近い上行大動脈に解離が起こる『スタンフォードA型』のほうが死亡リスクが高く、解離から48時間以内に破裂を起こすことが多いため、緊急手術を行います」(菊池医師)