「生活保護から抜け出せなくなる」38歳男性の絶望 「働きたいと願う障害者」の働く場所がない

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現在の家賃は約4万4000円。Wi-Fiの維持費や携帯料金に約1万円かかるほか、毎月の医療費もばかにならない。障害年金では足りないので、貯金を切り崩しているが、ヨシツグさんもこのままではいずれ生活保護を利用することになる。

生活保護を受けたくない理由

ヨシツグさんは「生活保護は受けたくない」と言う。本連載の取材では、貧困状態にある人自身が同じことを口にするのを何度も聞いてきた。世間の偏見と無理解のせいで「生活保護は恥」と考えてしまう当事者が少なくないのだ。

しかし、ヨシツグさんの理由は少し違った。ヨシツグさんは「生活保護を恥だとは思っていません。ただ一度受けたら抜け出せなくなると思うと怖いんです」と打ち明ける。たしかに生活保護となれば、もっと安い家賃の家に引っ越す必要がある。Wi-Fi環境が維持できなくなれば、在宅で働くことすら難しくなるだろう。

「もう一度彼女をつくりたいし、結婚もしたい。育った家庭環境のせいで、家族を持つことへの強いあこがれがあるのかもしれません。まだ(前向きな)変化を望む自分がいます。あがかずにはいられない。諦められない。だから生活保護だけは受けたくないんです」

家族を持つ――。いったん生活保護を利用すると、そんな未来が遠のいてしまうのではないか、というのだ。

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ヨシツグさんは近く就労継続支援B型事業所で働くつもりだ。ただB型は雇用契約を結ばないので最低賃金以下の工賃しか払われない。工賃は時給300円。B型で働きながら、引き続き仕事を探すのだという。

再び街道沿いの工房。家業はずいぶん前に祖父の代で廃業したという。古い建物の壁に施された精巧で躍動感のある浮き彫り細工だけが、往時の活況ぶりを知っている。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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