とどまることを知らない物価高もヨシツグさんの暮らしを圧迫する。最近はカップラーメンすら高くて買えなくなり、袋麺に変えた。スーパーでは鶏肉はブラジル産、豚肉は小間切れと決めている。牛肉はとうの昔に高嶺の花だ。
かつてなく高騰しているというミカンにも手が届かなくなりつつある。先日、6個入り690円の値札が張られているのを見て、手にした袋をそっと棚に戻した。「たしか去年は500円あれば買えたはずですよね」とヨシツグさんが言う。
伝統文化の継承を担うはずだったヨシツグさんの人生はどこで変わってしまったのか。
怒鳴り合う声が絶えない家だった
物心ついたとき、すでに父親は統合失調症で入退院を繰り返していた。幼稚園のころ、激高した父親が母親の首を締めあげていた光景を鮮明に覚えている。母親は胃潰瘍で入院。ヨシツグさんたちきょうだいもささいなことから平手やこぶしで殴られた。「毎日怒鳴り合う声が絶えない家でした」。
ある日、祖母の口元が血だらけになっているのを見たとき、父親が自分の母親にも手を上げるようになったことを知る。流血沙汰に警察官が駆け付けることもあった。そんなとき、ヨシツグさんは父親から「警察を呼んだのはお前か!」と詰め寄られた。身を守るために、母親ときょうだいとともに近くのホテルに避難することもあったという。
こうした家庭環境は学校生活にも影響を与えた。一時的ではあったが、いじめが原因で不登校になった。また、父親のせいで「大人の男の人」が苦手だったヨシツグさんは男性教師との折り合いが悪かったという。なんとか進学した高校も数カ月で退学。
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