北九州「水素・アンモニア拠点」でみた期待と不安 「3兆円補助金」で浮かび上がる燃料活用の現実と課題
山口県周南市では、出光興産などが「周南コンビナートアンモニア供給拠点整備事業」を進めている。出光の徳山事業所内のタンクにアンモニアを貯蔵し、同事業所をはじめ東ソーやトクヤマといった周南コンビナートを形成する各社に供給する。
アンモニアは波方ターミナルと同様、三菱商事と出光興産が出資を検討するアメリカ・テキサス州ベイタウンの大規模なブルーアンモニア製造プラントから調達する。調達量は波方と周南の双方で最大200万トンに及ぶ。
価格差支援の補助金の申請受け付けは今年3月末まで。経済産業省によれば、水素・アンモニアの製造時点で海外で補助金を受けられるか、需要家が水素・アンモニア燃料の調達にかかる固定費を補助する「長期脱炭素電源オークション」を落札しているか、などを「事業の確度」の要素として評価するという。
また、水素・アンモニアの供給拠点整備に関する別の補助制度もスタートする見通しだ。
だが、ここにきて事業者からは「2030年時点の水素・アンモニアの需要家を事実上確定させる制度設計になっており、当初のイメージと異なっている」と、怨嗟の声も聞かれる。
価格差支援があるとはいえ、燃料としては未知の商材を15年以上にわたって買い入れることを約束できる需要家は多くはない。「需要家は漸次増やしていくはずだった」という申請予定者もおり、各プロジェクトでは関係者間でギリギリの交渉が続いている。
価格差支援だけでは不十分
国の事情を知る関係者は、「国は2030年に温室効果ガスを2013年比で46%削減する目標を掲げ、そこに向けて官民で150兆円の投資を誘発すると言っている。2030年時点の需要家を確定させなければならないのはそのためだ」と話す。
だがそもそも価格差支援は、割高になる供給コストを補助金で補填して化石燃料と同等の価格で提供できるようにする仕組みだ。需要家側の経済的メリットは薄い。
「カーボンプライスなど将来いろんな規制やペナルティが出てくると想定して、先に国の制度に乗ったほうがいいと信じて需要家は価格差支援に手を挙げている。後続となる支援がなければ、需要家側の産業界は誰も積極的に脱炭素の取り組みをやらないだろう」。業界関係者はそう指摘する。
当然のことながら、ファーストムーバー(最初の行動者)向けとなる3兆円限りの価格差支援だけで水素・アンモニア需要は広がらない。
昨年12月に公表された第7次エネルギー基本計画の草稿では、長期脱炭素電源オークションにおける水素・アンモニア燃料費支援の「上限価格引き上げ検討」がかろうじて記されている。この制度は価格差支援に続く電力分野のセカンドムーバー以降に向けた支援拡充とされる。
が、「2030年までのアンモニア燃料需要300万トン」などとする政府目標を達成させるには、現行の補助制度では不十分だ。今後は電力分野だけでなく、ほかの産業分野でも需要家側の「第2弾」支援策の制度設計が早急に求められる。
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