「鉄塔爆買い」のベンチャーが5年で市場を去る真因 米国投資会社がTOB、抱えていた構造的ジレンマ

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投資家からの視線が厳しくなる中、最終的に株式非公開化という道を選択したJTOWER。わずか5年での上場廃止になるが、上場によって社会的信用が高まり、多額の資金調達などが可能になったことは事実だろう。上場しなければそもそもタワー事業を始めることが難しかった反面、上場する限り事業成長が難しい、といういびつな環境に置かれていたとの見方もできる。

一方で上場して以降、JTOWERは想定外の問題にも見舞われていた。期待された高速大容量通信規格「5G」の専用周波数の普及が遅れたことだ。

2020年から商用サービスが始まった5Gは、一世代前の4Gよりも高帯域の電波を使う。5Gの専用周波数はスピードが速いぶん、建物などの障害物を回り込みにくい性質がある。利用を広めるには大量の携帯基地局や多額のコストを要すると見込まれ、5Gの普及がインフラシェアを急速に後押しすると予想された。

しかし、「5Gならでは」のユースケースが限られたことや、官製値下げに伴うキャリアの投資抑制が要因となり、専用周波数が期待よりも普及しなかった。5Gの誤算も、JTOWERにとって大きな逆風になったといえる。

今後は経済安保上の懸念も?

上場廃止後、タワー事業はどうなるのか。5月にJTOWERが出した「中長期展望」では、国内に約8万本の鉄塔があると推計したうえで、2万本程度の統廃合を前提に、将来は全体の半分の3万本を運用する目標を掲げた。

かねてインフラシェア事業に対するキャリア側の期待は高く、NTTグループ、KDDI、楽天モバイルは次々とJTOWERと資本業務提携を締結し、TOB前にはNTTが16%超、NTTドコモが2%超を出資するなどしていた。

非公開化によってこれらの資本関係は解消されるが、NTTグループは、TOBが公表された8月14日に「今後もインフラシェア推進に向けた業務提携を継続する」と発表し、JTOWERも「(キャリアと)既存の事業関係を含めて変化はないものと想定している」と説明した。

データ通信量が急増し、5Gのさらなる利活用が求められるキャリアにとってみれば、今後もコスト削減に向けたインフラシェアが重要な意味を持ち続けることは間違いない。JTOWERの目論見通り、機動的な資金調達でタワーの取得がさらに加速するか注目される。

もっとも、今回JTOWERが外資系投資会社の傘下に入ることにより、同社による国内の通信インフラの獲得が今後さらに急速に進めば、経済安全保障上の懸念が高まる可能性もある。JTOWERの趨勢は、未来の国内通信業界の姿を占う試金石にもなっている。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、通信業界とITベンダー業界を中心に取材。メディア、都市といったテーマにも関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んだ。

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