ガブリエル・タルド 贈与とアソシアシオンの体制へ 中倉智徳著 ~「余暇」を論点に独自の経済社会学を築く
社会は「夢」、「催眠状態」と変わらない。ただ一瞬だけ「夢」から覚めることがある。「発明」の瞬間である。発明は共同幻想を打ち砕き、社会を革新する。だが社会は、今度は「新たな夢」の中へと入っていく──。
そんな奇抜な観点から独自の経済社会学を築いたのは、フランス社会学の創始者の一人、ガブリエル・タルド(1843~1904)。最近、にわかにブームになってきた。本書は主として、タルドの大作『経済心理学』を読み解いた好著である。
「ホモ・エコノミクス(経済人)」に対する批判は、鋭利で含蓄が深い。「幸福への欲望」を他の「欲望」類型と対比する視点も興味深い。「胚-資本」と「子葉-資本」の区別も示唆的だ。そして何よりも面白いのは、「余暇」を誰に、どの程度配分すべきか、という論点である。
タルドは三つの解決法を検討する。一つは「社会の最良の部分」たる高貴で卓越した人たちに、すべての余暇を集中させる方法。残りの人々は余暇なしに労働させられる。第二に、全員が一定時間労働し、一定時間余暇をもつ方法。これは平等主義的な解決である。最後に、余暇は「悪徳」だから、すべて取り上げてしまうという方法。働くことこそ美徳であり、余暇は必要ないという考えである。
従来、優れた人々に余暇を集中させる第一の方法が、諸々の発明を導いてきた。だがタルドは、労働者の勤務時間短縮と余暇の増大を展望する。労働は有用な植物、余暇は野生の草花である。科学や産業や美術はこの「野生の草花」によってこそ、革新されるというのである。
余暇に加えて、タルドは組合(アソシアシオン)を展望した。真の組合は、労働者の魂に喜びを取り戻す。その理念と構想は、現代人にとってもなお魅力的なビジョンを与えるだろう。
なかくら・とものり
立命館大学非常勤講師。専門は社会学、社会思想史。1980年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程修了。論文に「タルドとデュルケムにおける協同と分業--政治経済学に抗する社会学」など。
洛北出版 3360円 445ページ
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