やっぱり「ブギウギ」が大傑作になる予感のワケ 趣里による方言・笑い・歌への大奮闘について

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このあたりは、同じくテンポが異様に速かった『カムカムエヴリバディ』(2021年)での学びが活きているのだろう。見ていて心地よい。忙しい時間に放送される朝ドラこそ、忙しい展開が似合うと思う。

戦争の表現は朝ドラの腕の見せどころ

第8週(11月20日~)からは実質的な「第二部」といって良さそうだ。先のNHKドラマ・ガイド『連続テレビ小説 ブギウギ Part1』によれば、第8週から年末にかけて、じっくりと戦争を描くようである。

「第二部」のキーパーソンは、淡谷のり子をモデルにした茨田りつ子(菊地凛子)になるだろう。サイト「VOCE」の連載「黒柳徹子 私が出会った美しい人」 (9月11日)は、テレビ朝日『徹子の部屋』でゲストに招いた淡谷のり子が語ったエピソードを取り上げている(劇的な内容なので、以下少々長く引用させていただく)。

――戦争が長引くにつれ、食糧難になるだけでなく、英語を使うことが禁止されたりする中で、淡谷さんは軍の命令には従わず、軍歌は一切歌いませんでした。当時禁止されていたパーマヘアにお化粧もバッチリ、「これが歌手の戦闘服だから」と、華やかなドレスを着て兵隊さんたちの前に立つと、若い兵隊さんたちは拍手を惜しまなかったそうです。

「これが歌手の戦闘服だから」という表現の力強さはどうだろう。そして淡谷のり子が向かったある慰問先で、観客席に詰めかけた大勢の兵隊の少し横に目をやると、20〜30人の白鉢巻きをした子供がいる。係の人に聞いたら、こう説明される。

――「あれは特攻隊員です。飛行機ごと敵に突っ込んでいくので、命令が来て飛んだら、もう二度と帰ってきません。平均年齢は16歳です。命令が来たら飛びます。もし、歌っている最中に命令が来たら出ていきますが、悪く思わないでください」

そして歌っていると、

――「そのとき、少年はさっと立って、ニッコリ笑って、敬礼して出ていくんです。私は……次の歌が歌えなくなりました。悲しくて。自分がいちばんつらいのだから、さっと去ってしまえばいいのに。一人一人が、笑顔で敬礼していくなんて……。あんなに悲しい思いをしたことはないです」

戦争の表現は朝ドラの腕の見せどころだ。軍歌を歌わない茨田りつ子の横で、スズ子はどう歌って踊って恋して、どう生きていくのだろう。きな臭いことこの上ない世界情勢の中、朝ドラという国民的コンテンツの中で、戦争がどう描かれるか、興味が尽きない。

しかし、どんな戦時下の辛苦が待ち受けてようとも、福来スズ子、いや趣里なら笑って向かっていくだろう。「♪バドジズデジドダー」と歌いながら。

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スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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