「そごう・西武」売却で見える"地方百貨店の限界" バブル期に大量出店した店舗の閉店で防戦一方

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そごう・西武はその前身である、そごう、西武百貨店は、共にバブル期に郊外都市、地方都市に大量出店したことで成長した、いわば「遅れて来た」百貨店である。いずれもバブル崩壊後に経営破綻し、後に多くの不採算店をスクラップして再生して、ミレニアムリテイリングとして統合、再起を目指してセブン&アイの傘下に入った。

しかし、スクラップを完了したはずであった、そごう・西武の地方、郊外店は、地方、郊外の中心市街地の衰退が止まらず、その後も売り上げ減少、損益分岐点を下回り、閉店といったスパイラルから抜けられなかった。

そごう・西武の店舗網が当初から現在残っている店舗だけであったなら、その運命ももしかしたら変わっていたかもしれない。さきほどの図表で、2011~2022年の間に、経常利益累積額と当期利益累積額の差額(≒店舗スクラップに要した金)は約1200億円にもなる。これを前向き投資に向けることができていたら、若干は違う未来もあったかもしれない。

地方を中心とした百貨店に未来はあるか

コロナ後の大手百貨店の業績は回復著しく、伊勢丹新宿本店、阪急本店などはコロナ前を上回る売り上げとなり、好調な実績となっている。しかし、同時期の地方百貨店の売り上げ実績はコロナ前の8割程度にとどまり、その格差は拡大する一方である。

大手百貨店の好調は、富裕層の高額品消費とインバウンドの回復に支えられたものであることも報じられているが、こうした需要を享受できているのは、DX投資に支えられたマーケティングインフラを持つ強力な外商部隊とインバウンドの恩恵を受けやすい大都市立地を兼ね備えた特定の百貨店だけなのだ。

富裕層とインバウンドという限られた市場のみが百貨店の生きる道だというのなら、地方を中心とした多くの百貨店の未来は決して明るいものではあるまい。大半の百貨店は、富裕層+インバウンド専門店という大手の成功事例の模倣ではなく、立地する街の特性に合わせたそれぞれの生き方を見出していくしかない。

小売事業者という枠を超えて、運命共同体であるその街の中心市街地の活性化をいかにして実現するか、という視点が、経営に求められるようになってきたのである。

中井 彰人 流通アナリスト

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なかい あきひと / Akihito Nakai

みずほ銀行産業調査部で小売・流通アナリストに12年間従事。2016年同行を退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、慶應藤沢イノベーションビレッジでベンチャー支援活動を開始、近年は地方創生支援活動も実施中。並行して、流通関連での執筆活動を本格化し、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、講演活動などを実施中。2020年よりYahoo!ニュース公式コメンテーター、2022年Yahoo!ニュースオーサーを兼務。主な著書「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドDCSオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+ITなどで執筆、連載中。

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