日本企業が不得意な事業ポートフォリオの重要性 6つのテーマに学ぶポートフォリオ戦略とは

Value Creation Forum 2023
事業ポートフォリオマネジメントで価値創造をするには
急激なデジタル化、高まる地政学リスクなど、ビジネス環境の変化に直面する企業においては、事業ポートフォリオやサプライチェーンの戦略的見直しが急務となっている。
PwCの最新レポート「世界のM&A業界別動向:2023年見通し」によると、多くの企業経営者は、非中核分野や低成長分野の資産を売却して得たキャッシュを高成長分野へ再投資するという自己変革を成し遂げなければ、企業の存続が脅かされるという危機感を抱いているという。
また同レポートは、景気後退が懸念される一方で、バリュエーションの魅力が増していることから、2023年のM&A市場は活況を呈すると予想する。
このような状況下、PwC Japanグループがオンライン開催した「Value Creation Forum 2023」では、事業ポートフォリオマネジメントについてのアカデミックな知見の共有や、それを実践する企業経営者による事例紹介など、事業ポートフォリオマネジメントを通じた価値創造の要諦を中心に活発な議論が展開した。
経済産業省や学界、経済界などから有識者が招かれ、6つのテーマでセッションが繰り広げられたが、その中から早稲田大学の入山章栄教授が登壇したセッションを紹介する。
日本企業の事業売却が進まない2つの理由とは
グローバルにおいて、日本企業はその利益率の低さが指摘されている。
早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール教授
「その最大の理由は事業ポートフォリオにある。特に複数事業を持つ大手・中堅企業では、戦略的な事業ポートフォリオマネジメントを展開できているところが少ない」と、入山氏は語る。米中デカップリングをはじめとする「分断」、テクノロジーの急速な発展による「破壊的な変化」といった不確実性により、経営の先行きを見通すことは困難になっている。
こうした不確実性の高い変化はリスクだが、同時に好機にもなる。例えば、ウェブ会議システムと精度の高い自動翻訳機能を組み合わせれば、近い将来、言語の壁は取り払われる可能性が高い。それにより守られてきた国内サービス業は今後、激しい国際競争にさらされることになるだろう。だが、それは日本の質の高いサービスを世界に提供するチャンスにもなり得る。「自社の勝ち筋を早めに見定めて事業ポートフォリオ再編を急ぐべきだ」と入山氏は訴える。
重要性を増すポートフォリオマネジメントだが、国内外のM&A案件にアドバイスを提供してきたPwC税理士法人の山岸哲也氏は、日本企業のM&Aは「買い」に比べて「売り」が圧倒的に少ないという気になるデータを紹介した。
PwCの調査では、日本企業の経営指標は株価、企業価値よりも売上高や営業利益に偏重しているため、経営陣の間では、規模縮小につながる事業の撤退・売却への抵抗感は根強い。事業ポートフォリオを取締役会で定期的に議論している企業は4割強にとどまり、事業売却で得たキャッシュを使い、新たな事業を買収していくという、本来あるべき事業の入れ替えができていないことをうかがわせている。
「取締役会は最低でも3カ月に1回は事業ポートフォリオを議論すべき。欧米では事業買収の原資は事業売却で得たキャッシュに限定する企業もある」と、入山氏は“売り”の重要性に言及。さらに、日本企業が売却に消極的になる背景の1つとして、日本型雇用の問題点を挙げた。
日本のメンバーシップ型雇用では、社員が自身の人材としての市場価値を把握しにくい。その結果、事業売却で別会社に移ることへの不安は大きく、抵抗感も強まる。「社員が自身の市場価値を知るには、日本でも浸透しつつあるジョブ型雇用への転換が必要になる」(入山氏)。
事業売却が進まないもう1つの理由は、長期経営の視点が不足していることだ。事業ポートフォリオの変革には10年先を見据えた長期の取り組みが不可欠だが、日本企業の社長は任期の上限を定められていることが多く、目先の売り上げにとらわれがちだ。「『長期=独裁』を懸念する経営者もいるが、それは社外取締役をはじめとするガバナンスの問題だ。社長が結果を出すためには、任期に縛られることなく長期視点の取り組みができる体制を組むことが最重要ポイント」と入山氏は力説する。
事業ポートフォリオマネジメントのカギ
PwC税理士法人 国際税務/ディールズタックス・グループ パートナー、PwC Japanグループ ディールサービス共同代表
長期視点の事業ポートフォリオマネジメントには、会社の方向性を従業員らに納得してもらう「センスメイキング(腹落ち)」のほか、新規事業を開拓する「知の探索」と、既存事業を深堀して磨き上げる「知の深化」の双方を進める「両利きの経営」がカギになる。
20年、30年先の未来に向けて「当社はこういう方向で世の中に貢献し、こういう価値を提供して稼ごう」ということを訴え、社員、顧客、投資家らをワクワクさせるようなストーリーを示し、腹落ちさせて巻き込む。そして未来に開花しそうなシーズとなる事業に小さく、幅広く投資する「知の探索」を行う。
開花した事業にはしっかり投資して磨き上げる「知の深化」を行い、一挙に稼ぐ。やがて事業が会社の方向性とずれて非中核事業となったら早めに売却し、その資金を再び「知の探索」に回す。そういった循環が必要になるという。
ポートフォリオマネジメントは日本企業があまり得意としない領域だが、生き残るためにはやり遂げなければならない。
入山氏は「長期視点の経営には、応援してくれる投資家も大切である。経営者は投資家に戦略を丁寧に説明しなければならない」と対話を促し、「環境変化をチャンスに変えられるように、新しい未来に向けて腰を据えた取り組みが求められる」と語った。



