配信大手の本気で変わる「スポーツライブ」中継 資金力で圧倒、那須川天心ボクシングデビューも

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一方、数年前まではどの動画配信メディアもスポーツ独占配信権の取得に慎重だったのも事実である。Netflixの最高コンテンツ責任者テッド・サランドス氏が以前、「メジャースポーツの配信権取得は利益に繋がりにくい」と話していたように、リクープ問題はまさに慎重な見解を示していた理由の一つにあった。

そんなNetflixも今は興味を示している。フランスやイギリスを含むヨーロッパ諸国におけるATPテニスツアーのストリーミング配信権を獲得するために入札を行い、その後候補からは外れたと報じられているが、スポーツのライブ配信に手を広げようとしている。

では、なぜ状況が変わったのかというと、動画配信メディアの加入者の伸びに要因がある。動画配信メディアは急成長してきたが、加入者の増加率は新型コロナウイルスの世界的大流行が起こった2020~2021年をピークに、2022年以降鈍化し始めている。これによって投資コンテンツを今まで以上に厳しく見きわめる必要が出てきた。

多くの動画配信メディアはこれまでドラマシリーズの独占配信を売りにし、差別化戦略として破格の制作費をかけることも惜しまなかったが、ドラマは新規加入増や解約防止に繋がるようなリターンの見通しが立てにくいというデメリットもあった。

これに対して、スポーツは固定客がある程度予想でき、やり方によってはファン層の裾野も広げやすい。それゆえに、同じ100億円を投資するなら、ドラマよりもスポーツのほうが費用対効果が高いという見方が浮上してきたというわけだ。リスクを分散して、ドラマだけではなくスポーツコンテンツにも投資していく考え方が強まっている。

またここにきてNetflixやDisney+が広告付きプランを開始し、無料ストリーミングモデルのFASTチャンネルが欧米で広がるなど、動画配信の事業モデルそのものも多様化している。動画配信がニッチからマスへと、成長スパイラルに入っていることを意味するものでもある。総合編成を図ってコンテンツジャンルの多様化が進み、まずはスポーツというマス向けの強力コンテンツに目が向けられたと考えることができる。

Netflix初の世界同時生ライブ

ライブ配信のバリエーションを増やす動きもみられる。配信時代は、一つの動画配信プラットフォームで全世界同時にライブイベントを共有できることが強みにあると同時に、ライブ配信の価値を最大限に活用するためにも話題性のあるコンテンツを投下していくことがカギになる。

そこでNetflixが注目したのは、アメリカで圧倒的な人気を誇るスタンダップコメディだった。Netflix初の世界同時ライブストリーミングと銘打ち、メリーランド州ボルチモアのヒッポドローム劇場で現地時間の3月4日午後7時にクリス・ロックのスタンダップコメディショーが実験的に企画された。

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