「人間一人では生きていけない」を正面から考える 「個人の原理」と「共同体の原理」の決定的違い

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しかし、頭では理解できるのですが、やはり都市で育った人間としては、個人の事情を優先したいという想いがあります。事前に年間スケジュールがわかっていれば、まだ予定が立つのですが、急遽今週末集合と言われてもこちらの予定を優先したい。

しかし、村に住んでいる以上、共同体の事情を優先しないと共同体自体が維持できず、ここに住み続けることすら難しくなってくることは容易に想像できます。

僕たちは社会を生きるうえで、個人と共同体のどちらを優先して生きればよいのでしょうか。

この葛藤は山村に住む僕でなくとも、個人の欲望を追い求めてきた結果、社会格差が広がりすぎて物が売れなくなり、安価な商品を製造しようとするあまり、自然環境を破壊している、現代社会に生きる僕たちに共通する問題だと思います。また、30年以上続く不況から抜け出せない日本経済や、安倍政治に顕著であった権力の私物化、統一教会との密接な関係が問題となっている日本の政治に対して、不信感を抱くのは当然でしょう。

自由が毀損されるのは受け入れがたい

僕はそういう意味では、政治的にも経済的にも小さな政府を求めるリバタリアニズム的な思考がとても理解できます。アメリカでもこの3、40年でリバタリアニズムが市民権を得たといいます。この背景にはインターネットの出現と普及があると、渡辺は述べています。

確かに、近年のブロックチェーン(分散型ネットワーク)技術の進展は、仮想通貨からクラウドファンディングに至るまで、政府とは無縁のリバタリアン的世界をさらに拡張している。

自律・分散・協調に基づくネットワーク(水平)型のコミュニケーションを志向するインターネットは、リバタリアンの「ホームステッド」を広げ、逆に、自由を希求する彼らの欲望がインターネットの進化をさらに促してゆくのだろう。
(『リバタリアニズム』32-33頁)

リバタリアン的思考を持っていた僕が山村に越して自宅を図書館として開き、ルチャ・リブロ活動をするうえでインターネットの存在はなくてはならないものです。東吉野村には公立の図書館がないので、その代わりに図書館を運営しているのですかと聞かれることがありますが、そうではありません。

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