未婚と既婚の「所得差」こんなにも違う驚きの実態 所得の「男女格差」は実際どのくらいあるのか?

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単に、男女だけの所得や、配偶関係だけの別で所得を見てしまうと、「女性より男性のほうが多い」「未婚より既婚のほうが多い。というより既婚男性だけが多い」というような見え方になってしまいますが、男女ペアにした場合のシミュレーションでもわかる通り、それほど大きな違いはないわけです。

むしろ、夫婦の場合は、妻が出産や育児などで稼げない場合、夫が同年代の未婚より頑張って稼いでいるだけのことなのかもしれません。それは結果としてそうなっているだけで、年収が高いから結婚できたという因果には必ずしもなりません。

男女全体総数で比較した時に男女個人の所得格差が出るのは、こうした既婚男女の部分が大きいわけです。しかし、既婚男女間において開きがあるとはいえ、個々の夫婦が合意と信頼の下それぞれの役割を分業しているのであれば、それは尊重すべきことでもあり、何も全員が同じ労働時間、同じ所得を得なければいけないと強制すべきものでもないでしょう。

『男女共同参画白書』の中には……

「デート経験なし4割」というものだけが話題になってあまり取り沙汰されていませんが、あの令和4年版『男女共同参画白書』の中には、配偶者控除や第3号被保険者制度などの社会保障制度の見直しが明記されています。

白書の言葉をそのまま用いれば「税制、社会保障制度、企業の配偶者手当といった制度・慣行が、女性を専業主婦、または妻は働くとしても家計の補助というモデルの枠内にとどめている一因ではないか」と、配偶者控除や第3号被保険者制度があるから女性が働かないのだ、といわんばかりの内容です。加えて、民間企業の家族手当にまで文句をつけるという大きなお世話まで感じられます。

確かに、103万円や130万円など控除の恩恵を受けるために就業制限している例もあるでしょう。しかし、これらの控除や家族手当まで廃止されるとなると手取りが減って困る世帯もあると思います。

専業主婦世帯が必ずしも夫の一馬力だけで悠々自適に暮らせる世帯ばかりではありません。事情により働けない人もいるでしょう。しかし、この白書に漂う空気感を一言でいえば「もはや全員働け」という意図がくみ取れます。

白書の冒頭には以下のような言葉があります。

〈もはや昭和ではない。昭和の時代、多く見られたサラリーマンの夫と専業主婦の妻と子供、または高齢の両親と同居している夫婦と子供という3世代同居は減少し、単独世帯が男女全年齢層で増加している。人生100年時代、結婚せずに独身でいる人、結婚後、離婚する人、離婚後、再婚する人、結婚(法律婚)という形を取らずに家族を持つ人、親と暮らす人、配偶者や親を看取った後ひとり暮らしをする人等、様々であり、一人ひとりの人生も長い歳月の中でさまざまな姿をたどっている。このように家族の姿は変化し、人生は多様化しており、こうした変化・多様化に対応した制度設計や政策が求められている〉

さまざまな人がいる多様性を謳いながら、未婚も既婚も子や介護者の有無も関係なく、多様性など関係ない、全員統一で個人で稼ぎ、税金も年金も個人で支払いなさいという、まるで全体主義を押し付けようとしていると思うのは気のせいでしょうか。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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