その間、留守を預かることになったのが、太政大臣の三条実美のほか、木戸以外の参議にあたる西郷・大隈・板垣である。筆頭参議である西郷にいたっては、大久保不在の間、大蔵省事務監督も兼務することになり、事実上のトップリーダーとなる。
ただし、出発にあたって大久保や岩倉らの使節団と、西郷や板垣らの留守政府の間では、こんな約束が取り交わされていた。
「使節団が戻ってくるまでは、大きな改革はしない」
のちにこの約束が踏みにじられることになり、大久保は西郷と対立を深めていくが、それはまだ先の話だ。
権力を掌握してもなお、貪欲に成長しようとしていた
出発時に大久保は41歳になっていた。
海外視察を熱望したのは、自身に近代的な実務の知識が欠けていると自覚していたからでもあった。
組織において、足りない点は自らカバーしなければ、自分のやるべきことができなくなる。権力を掌握してもなお、大久保は貪欲に成長しようとしていた。
もっとも久光の怒りから遠ざかりたいという気持ちもあったかもしれない。事実、久光の不満は残された西郷にぶつけられることになる。
あふれんばかりの意欲を持って、まずはアメリカに向かう大久保。しかし、現地にて、自身の引退を考えるほど大きなカルチャーショックを受けるとは、このときはまだ知る由もなかった。
(34回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』 (講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家 (日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』 (朝日文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬?海援隊始末記』 (中公文庫)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人 『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
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