ホンダ、次期社長が超えるべき「2つのハードル」 6年ぶりのトップ交代で託されたEV戦略

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新社長に就く三部氏(左)は技術開発畑を歩み、とくにエンジンに関する知見が深い。右は現社長の八郷氏(写真:ホンダ)

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「激動の時代に自分が存在することにワクワクしている。トップになる重責を感じてはいるが、プレッシャーには強いほうだと思う」

ホンダは2月19日、八郷隆弘社長(61)に代わって、三部敏宏専務(59)が4月1日付で社長に就任する人事を発表。新社長となる三部氏は会見の席上、新たな挑戦への期待を口にした。6年ぶりのトップ交代で、八郷氏は6月の株主総会後に取締役も退任する。

次期社長の大本命だった技術者

三部氏は次期トップの大本命と目されていた人物だ。技術者としてエンジンなどの開発に長く携わり、2019年にホンダの開発機能を担う子会社の本田技術研究所の社長に就任。昨年春からはホンダの専務も兼任し、EV(電気自動車)の共同開発などを柱とするアメリカのゼネラル・モーターズ(GM)との戦略提携では中心的な役割を果たした。

2015年にトップに就いた八郷氏は、過去の拡大路線の修正と後処理に追われた。前任の伊東孝紳社長時代にホンダは四輪事業で世界販売600万台達成の目標を掲げて生産能力の拡大を推し進めたが、その後の販売台数は計画どおりに伸びず、設備過剰に陥った。さらに、使う部品が国や地域で異なる派生モデルを多数投入したことも裏目に出て、四輪事業の収益性は大幅な悪化をたどった。

こうした「負の遺産」の後処理を迫られた八郷氏は、過剰設備の解消策として2018年以降、狭山(埼玉県)、イギリス、トルコの工場閉鎖を次々に決定。いずれも2021年中に閉鎖する予定で、生産能力は従来の年559万台から514万台へと1割弱減る。2015年から再参戦し、年間数百億円もの開発費がかかっていたF1から2021年シーズンで撤退することも決断した。

さらに、創業者である故本田宗一郎氏の時代から「聖域」扱いされてきた本田技術研究所の組織再編にも踏み切った。ホンダは独創性を重んじ、あえて本体とは別の同研究所で車両や技術の開発を行う独自の体制をとってきた。しかし、別組織ゆえに調整作業に時間がかかるなど、弊害も目立つようになっていた。

そこで八郷氏は昨年4月、四輪開発機能を本社の四輪事業本部に統合し、商品企画から開発、生産までのオペレーションを本体で一体運営する体制に変更。売れる車の開発・商品化を迅速化するための組織再編だ。

こうした改革を進めた八郷氏からバトンを引き継ぐ三部氏にとって、大きな課題は2つある。1つ目は四輪事業の収益性の改善だ。

新型コロナ前の2020年3月期決算でみると、全社売上高の約7割を占める四輪事業の営業利益は1533億円で、売上高営業利益率はわずか1.5%に過ぎない。過去の拡大路線のツケが顕在化したためで、ここ数年は、対照的に高い収益性を誇る2輪事業(2020年3月期の営業利益は2856億円)がホンダの業績を支える構図が続いている。

三部新社長の下、ホンダは2021年以降に投入する新型車に「ホンダアーキテクチャー」と呼ぶ新しい設計手法を導入する。車種を超えて主要な部品の共通化を図り、コストダウンや設計・開発の効率化につなげる狙いだ。3工場の閉鎖とこうした新たな合理化の取り組みにより、どこまで収益性を改善できるかが当面の注目点だ。

最大の課題は電動化対応

そして、三部氏にとって最大の課題が、脱炭素社会に向けた本格的な電動化対応だ。日本で販売する新車の6割を占めるなどHV(ハイブリッド車)では先行するが、HVはあくまで本格的なEV時代到来までのつなぎの技術。欧州の環境規制対応で2020年に初の量産型EV「ホンダe」を日欧で発売したものの、その年間販売計画は約1万台にとどまる。

北米ではGMとEVの共同開発を進め、2024年にGMのプラットホーム(車台)と電池を用いたEVを2車種発売する。しかし、日本などでどのようにEVを開発、展開していくかは目標を含めて明確な方針を示しておらず、本格的なEVシフトに動き始めた欧米勢に比べ出遅れ感は否めない。ホンダ独自のEV戦略をどう描いていくかは今後の大きな宿題だ。

三部氏は新社長としての自身の役割について、「将来への成長の仕込みを加速させ実行に移すこと。八郷が固めた地盤にホンダの未来という建物を建てることだ」と語った。エンジニア出身ゆえに、電動化技術への知見は深い。四輪事業の収益性を改善させつつ、将来に向けた本格的なE Vシフトをいかに進めていくか。自動車産業が大変革期を迎えている中、三部氏の手腕にホンダの未来が懸かる。

東洋経済ダイジェスト「ホンダ新社長に託された課題」では、『週刊東洋経済』に掲載した社長インタビューも掲載しています。
経営と研究の2トップが抱く「大転換期」の危機感(2018年4月21日号)
八郷隆弘社長「ホンダは復活する。課題は見えている」(2016年1月30日号)
伊東孝紳社長「失敗は真摯に反省。感性が欠けていた」(2015年1月17日号)
 

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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