[Profile] ますぶち・としゆき 1957年札幌市生まれ。法政大学大学院政策創造研究科教授。専門は文化地理学。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。数社で放送番組、音楽コンテンツの制作などに従事したのち現職。『「湘南」の誕生』など著書多数。
特定の時代や場所に、すごい才能の持ち主がなぜか集まることがある。新しい芸術や思想を生み出した19世紀末のウィーン、あるいは1920年代のパリ。歴史をひもとけばいくらでも例を挙げることができる。
本書はクリエイターたちが特定の場所に集まるメカニズムと要因を解き明かそうとする試みだ。そこで扱われるのは、戦後日本のカルチャー史を彩る数々の伝説的サロンやコミュニティである。
その筆頭は、なんといってもトキワ荘だろう。かつて東京・豊島区南長崎の小さな木造アパートに手塚治虫、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄といった天才たちが集まった。いずれも漫画界のレジェンドである。よくぞここまで集まったものだと思う。
才能あるクリエイターたちが特定のエリアや同じ建物内に固まって住む「集住」という現象が、日本では多くみられた。大正から昭和初期にかけては田端や阿佐ヶ谷、鎌倉に文豪たちが集まり「文士村」を形成したし、大正末期から戦後にかけては画家たちが西池袋界隈(かいわい)にアトリエを構え「池袋モンパルナス」と呼ばれた。
集住のメリットは何だろうか。練馬区の「大泉サロン」といえば、竹宮恵子や萩尾望都ら漫画表現に革命をもたらした「24年組」と呼ばれる漫画家たちが集った場所である。竹宮と萩尾の共通の友人である増山法恵がここのキーパーソンだった。少年愛を初めて本格的にテーマにした竹宮の傑作『風と木の詩』は、増山との対話に刺激され生まれたという。「彼女が面白がってくれたことに心が躍った。次々にその場で設定が生まれるドライブ感。あれはもう、一生に一度のことだったように思う」。自伝『少年の名はジルベール』の中で竹宮は当時の興奮をこう語っている。
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