一時はパニック状態となった株・債券・為替など金融市場も徐々に平静を取り戻しつつあった中、4月20日のニューヨーク原油先物市場で期近物の価格が大きく水面下に沈むという前代未聞の珍事が起きた。
WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)原油の5月限は翌21日が最終決済日(納会)に当たり、この時点で建玉を有する取引参加者は漏れなくすべての未清算残高を反対売買、もしくは現物の受け渡しによって決済する必要があった。納会の朝時点での当該限月の未清算残高が10万枚強(1枚は1000バレル)あった。
先物取引では納会までに売り方は買い戻し、買い方は売り戻すことで建玉を清算し損益を確定せねばならない。しかしニューヨークの先物市場では現物決済も認められていて、価格が現物市場から大きく乖離するようであれば現物での決済も可能だ。すなわち、相場が安すぎれば買い手は現物で引き取り、高すぎれば売り手は現物で引き渡す。
今回のマイナス価格は相場が異常に安いにもかかわらず買い方が引き取り不能状態に陥ったことで発生した。そうなれば買い方は現物決済を断念して売り戻すしかない。そんな買い方の弱点を悟った売り方は徹底的に相場を売り崩し、買い方が諦めて売り戻すまでスクイーズする(追い込む)。その日瞬間的に売買されたマイナス40ドルという極端な価格にはそんな背景があった。実需の世界とはかけ離れた空中戦の世界だ。
ではなぜ、現物引き取り不能になったのか。コロナ禍により航空機や自動車に使う燃料を中心に産業用需要があまりに短期間で消滅したことにより石油のサプライチェーンが崩壊し、さらに追い打ちをかけるように、あふれた石油をためておく貯蔵スペースも限界に近づいたのだ。石油が環境に優しい商品なら捨てれば済むので価格はゼロ以下にはならないが、石油は産業廃棄物扱いとなり引き取り手がなく、厄介な代物となる。
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