「海外で博士号を取得し、論文も多数執筆してきた。氷河期世代に対して、よく世間は努力が足りないと言うが、研究者としてこれ以上、どう努力を重ねたらいいのか」。仏文学を専攻する、50代男性のAさんは憤る。
Aさんは都内の私大を経て、2000年代初頭にフランスに留学した。「大学教員になるためには、今後は博士号取得が必須となるはず」(Aさん)と踏んだためだ。在仏期間3年半の早さで、30代半ばに文学博士号を取得した。
ところが帰国後、大学教員の常勤職にいくら応募しても採用されない。国は大学院重点化策を進め、博士課程修了者数は膨張したが、受け皿となる大学教員の採用数は、国の運営費交付金が減らされるなどで減少に転じたためだ。
数少ない常勤ポストの奪い合いの勝敗を分けるのが、人脈とコネだ。団塊の世代が順番待ちをしているうえ、仏文は伝統的に国公立大人脈が幅を利かせており、私大出身者が入り込む余地はなかった。また、純粋な公募もあるにはあるが、「ほとんど宝くじに当たるようなレベル」(Aさん)だ。
結局、35歳から45歳までの10年間、大学のフランス語の非常勤講師などで食いつないだ。ただ、英語に比べて圧倒的にコマ数は少なく、年収は200万円を割り込んだ。さらに年金や健康保険の保険料も全額自己負担だ。「結婚もしたかったし子どもも欲しかったが、この年収だと1人で生活するのが精いっぱいで、恋愛や家族のことなど考えられなかった」(Aさん)。
ようやくこの数年で、団塊の世代の教員が引退期に入ったが、国の政策が氷河期世代の足を引っ張る。政府は「科学技術基本計画(第5期)」で、将来的に40歳未満の大学教員の割合が3割以上となることを目指すと目標値を掲げた。その結果、「われわれの世代は頭越しにされ、博士号を持つ30代が次々と常勤職に就いている」(Aさん)。突如はしごを外された格好のAさんは、今は海外への移住も視野に入れていると語る。
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