そう見えないかもしれませんが、私は「あがり症」です。登壇する前はいつも落ち着きなくその辺をうろうろ歩いています。あがるようになったのは、実はアナウンサー6年目のある出来事がきっかけでした。それまでは、ほとんどあがらなかったのです。
私は学生時代に塾講師をしていて、アナウンサーになった当初から人前でしゃべるのには慣れていました。記憶力にも自信があり、5分くらいの生中継のコメントは比較的楽に暗記できました。今だから白状しますが、「アナウンサーに向いているかも」なんてうぬぼれていたのです。
そんな自信が崩れる日は突然やってきました。1996年8月23日。全国各地の人々の暮らしぶりを伝える、「生中継 にっぽんの夜」という生放送番組の司会を務めたときのことです。番組冒頭、ゲストを招き入れるときに事件は起きました。「本日のゲストをご紹介しましょう。ノンフィクションライターの……」。お名前が出てきません。こんなはずはない。もう一度。「ノンフィクションライターの……」。やはりダメ。3回目に言おうとしたとき、現場のディレクターが「足立!」と叫んでくれ、ようやく「足立倫行(のりゆき)さんです」とお名前を言えました。
大変だったのはその後。完全に頭に入っていた台本が、まさに真っ白になっていたのです。放送の現場で使われるカンニングペーパー、いわゆるカンペも用意していませんでした。記憶力に自信があったからです。そんな危機的状況でしたが、ご出演の皆さんにたっぷり話をしてもらって、何とか番組を終えることができました。
この記事は有料会員限定です
残り 630文字
