この国は時々「年金ヒステリー」ともいうべき症状を発症する。
6月上旬、金融庁が報告書に「老後資金に2000万円が必要」と書いたところ、野党は鬼の首を取ったように批判を始めた。与党は血相を変え、麻生太郎金融担当相は表現が不適切だとして、「受け取らない」などと言い出す。
「それだけ人々の将来不安が強く、年金制度が信用されていないのだ」という評判がもっぱらだ。しかしここでは、もっとあけすけに説明させてもらおう。
総務省の家計調査(2018年)によれば、わが国の高齢者世帯の貯蓄額は平均値で2284万円、中央値でも1515万円である。この数字だけ見れば、一定の水準に達しているようにも思える。
一方で、300万円未満の世帯も15.9%ある。高齢でない一般世帯の貯蓄額はこれより少ないので、「2000万円なんて絶対無理!」と感じる人が少なくないということになる。
つまり、高齢者の資産格差は非常に大きいのだ。あるところにはあるのだが、ほとんど縁がない人も少なくない。審議会のメンバーは高給取りぞろいで、その辺のイマジネーションを欠いていたと言ったら酷であろうか。
長寿時代が本格化すると、必然的に格差は拡大する。健康状態から家族の有無、そして資産の多寡まで高齢者が置かれた状況はさまざまだ。平均寿命が短かった頃には、そうした格差を気にする間もなくお迎えが来た。しかし、予想外に余生が長くなると、嫌でも他人との差が気になってくる。今回の問題を肥大化させた集団ヒステリーが生じる土壌がここにある。
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