[著者プロフィル]うちざわ・じゅんこ/1967年生まれ。文筆家、イラストレーター。日本・世界各国を歩き、さまざまなジャンルのイラストルポを発表。2011年、『身体のいいなり』で講談社エッセイ賞受賞。『世界屠畜紀行』『漂うままに島に着き』など著書多数。
交際8カ月で別れ話を切り出したら、スマートフォンの着信履歴が埋まり、LINEには恫喝のメッセージが届く。身の危険を感じ、警察に相談したら、交際相手は偽名で前科があることまで判明する。私が付き合っていたのは誰なのだろうか。もしかしたら凶悪犯なのか。これからどうなるのか──。
平成生まれの新たな犯罪の1つが「ストーカー」だ。昔からつきまといによる被害はあったものの、長らくは「民事不介入だから警察は手を出さない」が常識だった。1999年に起きた桶川ストーカー殺人事件が契機となり、ストーカー規制法が制定され、犯罪として認知された。
とはいえ、多くの人には対岸の火事だろう。いきなり我が身に降りかかったら、誰もが右往左往するはずだ。
今なら前述のストーカー規制法が犯罪抑止の一助になると思われるかもしれないが、残念ながら著者が被害にあった当時は、SNSへの書き込みは規制の対象外だった。法が現実を後追いするのは避けられないが、規制以外の一般人が思いつく解決法にはことごとく壁が立ちふさがった。
著者は示談に持ち込むものの、相手はいっさい約束を守る気がない。誹謗中傷のLINEを送り続け、インターネット上の掲示板には捏造された性的嗜好を書き込まれる。
つきまとわれるだけでも怖く、被害者の著者は息を潜め暮らすのに、加害者の名前や犯歴は「人権」を盾に守られる。著述業でメディア露出も多かった著者の苦悩がどれほどかは想像に難くない。
ホラードラマさながらの展開だが、著者は追い詰められながらも客観的な視点を失わない。いつ襲われるかにおびえながらも、検事が俳優の斎藤工に似ていることに新鮮さを覚え、スーツの趣味がよいことに感心するなど観察を怠らない。緊張と緩和の非連続のリズムが心地よく、ページをめくる手が止まらない。
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