「これからはアジアの時代だ」「子どもの英語教育のためにも」。そんな理由で一念発起して東南アジアで起業する中年層が増えている。特にシンガポールは医療、教育、治安などどれもレベルが高く、日本人の移住先として人気だ。
所得税の最高税率は日本より低く、資産課税がないため、節税目的での移住も多い。しかし、海外移住はそのシンガポールでさえ、困難なことが多い。思わぬ落とし穴もあるので、気をつけなければならない。
架空のファミリー、伊藤家を例に話を進めてみたい。50歳の伊藤ツトムさんは7年前に脱サラしてシンガポールで起業した。移住当初はリーマンショック後ということもあって、シンガポールドルや物価は現在ほどは高くなかった。

当時は子どもも未就学児で教育費も少ない。妻のヨシコさん(43)はやり繰り上手な専業主婦。地元スーパーで安く食材を調達するなど工夫し、買い物に浪費をするタイプでもない。事業の売り上げが伸びれば、ここは終(つい)の住処(すみか)になるはずだった。
しかし、事業は一向に軌道に乗らない。シンガポールの人口は約554万人と東南アジアの中でも市場が小さいのである。家賃や人件費など経費はかさむ。生活費は日本よりも高額になる。教育費や医療費を考えると、シンガポールで二人の子どもを育てるには手取り年収が1000万円は必要となる。
伊藤家の家計簿を詳細に見てみよう。住居費、保険料・医療費、教育費が突出している。住居は郊外の外国人向けコンドミニアムを借りており、賃料は月26万円。日本人の多い都市部では2LDKで40万円以上することも珍しくない。地元の人たちが住む団地型のマンションを借りると賃料を抑えられるが、それでも家族向けで20万円以下の物件を探すには郊外に行かないと難しい。
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