「弛度」は専門家(電気関係者)は「ちど」と読んでいる。鉄塔と鉄塔の間に張られた、高圧電線のタルミ(弛み)のことだ。
「ピンと張っておくと、強い風や重い雪で電線が切れ、停電の範囲が広域になります。弛度はその予防策です」。現場の修復に携わる電気労働者に教えられたことがある。これはいい教訓だ。以来、研修や講演のときに使わせてもらっている。
「組織や職場がピンと張りつめていると、いつか切れます。職場は停電状況になります。弛度が必要です。緩み・弛み・ゆとりです。職場だけでなく人間にも必要です」。そして“弛度人間”の代表としてフーテンの寅さんや、『釣りバカ日誌』のハマちゃん(浜崎伝助)の言行を語る。ビジネスパーソンの大半が二人を知っており、まだウケる。(当分は大丈夫かな)と思っている。
歴史にも弛度人間はいた。江戸時代、京都の祇園さん(八坂神社)の境内に、「女歌人茶屋」と呼ばれる茶店があった。祖母・母・娘と家業が伝承された。祖母も母も男運に恵まれなかった。好きで愛し合った経験はあるが、一緒になれずそれぞれシングルで過ごした。そのため祖母も母も「娘だけは幸福になってほしい」といつも願っていた。共に歌才があって、御所のお公家さんに手ほどきをしてもらい、専門家の評価に堪える歌を作った。これを短冊に書いて店にぶら下げた。そこで、女歌人茶屋と呼ばれた。
あるとき、境内の一隅に若い貧乏絵師が店を開いた。店といってもゴザを敷いて作品を並べただけの、露天画廊だ。娘は絵が好きなので、暇があるとよく見に行った。ある日絵師が茶店に来た。「ちょっと店の留守番をお願いしたいンですが」「いいわよ」。母親がOKする前に娘が引き受けた。娘はゴザの上に座ったまま売れない絵の番をした。そのまま1カ月が過ぎた。3カ月が過ぎた。青年絵師が戻ってきた。「遅くなってすみません」。
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