「障害者の在宅勤務」あまりにもシビアな実態 コロナ禍で導入進む中で、欠けている視点とは

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調剤薬局大手クオールホールディングスの特例子会社クオールアシスト(東京都中央区)は、2009年に設立された。当初から、重度の障害者を中心に障害者雇用を積極的に進めてきた。

特に物理的に移動が困難な障害者の在宅雇用に力を入れる。現在、車いすを使用する社員が8割を超える。頸髄損傷のために90度の座位が難しい社員もいる。交通事故やスポーツ中の事故などで、体が不自由になったケースが多い。

業務の中心は、グループ社から請け負う「データ入力」「イラストデザイン」「Web制作」など。社員56人のうち、在宅勤務は50人で、その内訳は重度身体が48人、軽度身体が2人。本社勤務は6人で、1人が軽度身体。在宅勤務の社員は全国各地に住み、全員が1年ごとの契約となっている。

在宅勤務に欠けている視点が見えてくる

在宅勤務をスムーズに進めるうえで力を注ぐのが、社内外や社員間の情報共有体制の構築、整備だ。

ここからの流れが興味深い。まず、採用試験の後、内定を出す前に青木英社長をはじめ、在宅事業部の社員がエントリー者の自宅を訪問する。家族関係や支援の体制、仕事部屋の間取りや室内の様子、トイレや入浴の状況を確認し、大きな問題がないと判断した場合、内定とする。家庭訪問の結果、不採用としたケースもある。さらに社長や在宅事業部の社員は、地域の支援団体「障害者就業・生活支援センター」や地元の自治体へ出向き、協力体制をつくる。

内定後のパソコン設置時には、在宅事業部の社員が自宅まで出向き、セッティングをする。車いす使用時の机の高さや作業時の姿勢を考慮し、作業療法の視点も取り入れて対応する。遠隔地に住む場合も、現地の業者に依頼はしない。青木社長は「外部の人を自宅に入れることは、情報漏洩につながりかねない。障害を抱えた本人や家族にとっても、精神的な負担になりうる」と話す。

Web会議システムを使うミーティングは、パソコンの画面に画像を映さず、声のやりとりだけにする。画像を映すと室内の様子が映り、プライバシーを保護することができないためだ。「画面に出ると、ほかの社員に気を使いすぎる社員がいる。精神的な負担を避ける配慮をできるだけ施したい。一方で顔が見えないために互いに深読みをする場合がある。そこまでしなくともいいところまで対処するときもあり、それが業務負荷になりかねない」(青木社長)。

同社では働き手本人や家族の同意のうえ、家庭生活にまで入り、心身の健康や就労のスタイルに配慮している。本来、障害の有無にかかわらず、企業には社員の労働安全に配慮する責任がつきまとう。「労働時間や働く場所は個々の社員が判断する。それぞれの自己責任」といった捉え方にも一定の限界があるだろう。

障害者の在宅勤務の実態を見ていくと、私たちが考えるべき経験や事例が数多く凝縮されている。こうした部分によりフォーカスすることで、浸透しつつある在宅勤務に欠けている視点がみえてくるのではないだろうか。

吉田 典史 ジャーナリスト

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よしだ のりふみ / Norihumi Yoshida

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。

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