阿部寛「まだ結婚できない男」に見た圧倒的魅力 13年分の歳を重ねたリアルの体現が共感呼ぶ
俳優として幅広い仕事をしている阿部寛。その十八番といえば、世の中を斜めに見た皮肉屋の役。出世作となった「トリック」シリーズの上田教授がその代表で、ちょっと鼻持ちならないくらいプライドが高いエリート役が人気を博し、関連本まで売れに売れた。自己顕示欲が強くて意地悪なところもあるけど、どこか憎めない。
「まだ結婚できない男」では嫌味を言うときの口元のねじり方、吉田羊演じる弁護士が独身と聞いて「ウホホホッ」と声に出す笑い方がみごと。あからさまに人を不快にする態度をとるが、そういうことが嫌でなく、楽しみになる奇特な俳優だ。
十八番をもつ一方で、俳優・阿部寛はこの13年間、さまざまな役を演じてきた。東野圭吾原作「新参者」の刑事、池井戸潤原作「下町ロケット」の中小企業社長、是枝裕和監督作『海よりもまだ深く』の、鳴かず飛ばずの作家、そして『テロマエ・ロマエ』のローマ人! 下町の人からローマ人まで多彩な人物を演じてきたうえ、私生活では結婚して、13年前とはパブリックイメージがだいぶ変わったはず。
にもかかわらず、結婚できない桑野信介は桑野信介だった。その達者な演技にも舌を巻きつつ、いつまでも変わらない漫画のような人物ではなく、13年分の歳を取ったというリアリティーまで伴っているところにこそ、阿部寛と「まだ結婚できない男」の真価があると私は言いたい。
前作を見た人も13年前から歳を取っている
なぜなら、あなたも私も、前作を見た人は13年前から歳をとっているからだ。生身の視聴者の13年分をも背負わなければ、「まだ結婚できない男」は成立しない。いつまでも変わらない寅さんではなく、ちゃんと年をとるキャラクターであることがドラマを面白くする。
人間、変わらないところ(やっぱり結婚しないところ)もあれば、変わったところ(年をとったところ、仕事に対する野心もそれなりに芽生えているところなど)もあるもので、そこを阿部寛はみごとに見せていた(脚本家や演出家の力もあると思う)。
第1話で印象に残ったのは、ペットショップで犬を見て、
「売れ残ったらどうするんですかね」
と聞くところ。
「それは……」と店員は口ごもる。
犬と人間を重ねているのは明白で、単なる結婚できない男のコメディーではなく、哀愁があるところに心つかまれる。
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