Top Interview
事業の特性にあわせて戦い方を変える
三菱電機のグローバル戦略
山西 健一郎 三菱電機 執行役社長 取締役
海外売上高比率40%(12年度実績35%)をめざす同社トップの山西健一郎社長に話をうかがった。
躍進の原動力は「バランス経営」
伊藤 御社の収益性を過去10年くらいにわたって競合他社と比較すると、ほとんどの年で、最も高い数字を維持されています。また、リーマンショックのときも唯一黒字を確保されていました。なぜこのような業績を実現できているのでしょう。
山西 三菱電機は2001年度の連結決算での赤字を底に、2003年度以降はずっと黒字です。その要因はいくつかあると思いますが、原動力となっているのはわれわれの経営方針である「バランス経営」です。バランス経営とは、収益・効率性、成長性、健全性の3つをバランスよくすることで、強固な経営体質を構築し、持続可能な成長を実現することをめざすものです。
たとえば、収益・効率性や成長性を高めるために、事業の選択と集中に大胆に取り組んできました。具体的には携帯電話事業の終息や、DRAM販売権の譲渡などの構造改革が挙げられます。また、当社流にアレンジした「ジャスト・イン・タイム改善活動」にも取り組んできました。先駆的に生産改善活動に取り組んでおられる会社様から指導を受けながら、この活動を十数年続けてきた結果、売上原価率を約6%下げることができました。
健全性を高めるということでは、借入金を大幅に減らしました。2001年度の借入金比率は約38%でしたが、現在は約15%まで下げました。
このように強固な経営体質を構築するために、畑にまく種を選ぶ活動と畑を耕して土地を肥沃にする活動の双方を継続してきたわけです。
そして3年前に私が社長になったとき、「バランス経営は継続しながら、今後は特に『成長』に軸足を置く」と宣言しました。肥沃な土地も放置するとすぐに荒廃するので、耕し続けます。しかし、三菱電機は決して畑を耕すだけの農地貸し出し業ではない。その畑に良質の種をまき、成長させ、花を咲かせ、実を売るのだと。そのためには自分たちが得意とする、強い事業をより強くしていく必要がある。だから社会インフラ、環境・エネルギーという領域に力を入れ、それをグローバル展開しようと。これが、この10年の流れであり、その成果が出た結果が高い安定性の実現につながっているのです。
伊藤 そうした社長のお考えを全社員に浸透させるのは大変だったと思いますが、何かコミュニケーションの工夫などはされましたか。
山西 「ジャスト・イン・タイム改善活動」をスタートした頃、私は生産システム本部の生産技術センター長でした。生産技術センターが中心となって「ジャスト・イン・タイム改善活動」の全社展開に取り組んだのですが、まずは関係会社からスタートしました。われわれの意志をくみ取り、確実に実行してくれる関係会社に実践してもらい、そこをモデルケースとして本体に着手したのです。実際の成功例を目にすることで、本体の各製作所も活動の目的を正しく理解し、自発的に取り組むようになりました。
伊藤 選択と集中を行う際には、部門との軋轢みたいなものが、起こりうるのではないでしょうか。
山西 それはありますが、どう考えても成長性が見込めないものについては、きちんと説明すれば必ず理解してもらえます。