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グローバル×デジタル化社会における
経営のイノベーション 岩渕 匡敦 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー

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日本企業に対する示唆

現状を打破し、日本企業がグローバル社会、特にアジアでその存在感を強めていくためには日本企業に合ったイノベーションの創出と実行計画が必要だ。その第一歩は、発想をモノづくりやビジネスモデルありきの発想から顧客基点に移すことである。まず各国の顧客や潜在顧客の考え、要望、生活スタイルなどを、デジタル化時代で入手しやすくなった定量・定性のデータを徹底的に分析し、さまざまな角度で正確に理解した上でサービスや製品、チャネルをどう組み替えるかを検討する。図表3のフレームワークの右から左に思考していく形に意識を変革するのだ。その際には、顧客すら気づいていない潜在的な要望や欲求も含めて検討する。日本企業ではこのような検討がうまく進まないケースが多いが、たとえば議論の際、意識レベルを拡張するため、企画や議論に長けた欧米現地法人の経営層、異業種の出身者、学会や外部の専門家を積極的に招聘し、イラストや写真といった感覚で理解できる手法を活用することで、検討をよりスムーズに進めることができるであろう。

次に「具体的かつ大胆な」少数のアイディアへの絞り込みをする。導出されたオプションのなかから、デジタルチャネルやアセットを活用できる企画の絞り込みを自社の戦略にあわせ実施するのだ。絞り込んだ企画は、社の経営課題(チャレンジ)と捉えて、マネジメントの強い意志を持って推進することが重要である。現行のモデルでは衰退していくのだから、リスクを取り投資の意思決定をいかに早く矢継ぎ早にできるかが勝負となる。

なお実行にあたっては、パイロットアプローチを採る。前述のように日本企業には既存の資産やチャネルといった硬直化した関係性も多い。スピードを重視するため小さな領域での別ブランド立ち上げ、アジア新興国の小規模マーケットでのトライアル、海外経験の長い若手にリーダーを任せるといったアプローチが有効だろう。外部環境の変化が劇的に早いデジタル化時代は、Agile*2方式で早めに結果を出し、その成果やプロセスを可視化しながら新しい要素を加えて取り組みの規模を拡大していくことが重要だ。小規模でも結果を見せることで経営層や関与者の意識を変えることができる。欧米系、韓国系が長けているこういった一連の手法をアジアや新興国でいかに迅速に取り入れて、先陣を切って経営のモデルをシフトさせていけるかが日本企業の成長を決めるだろう。

日本企業がデジタル化に向き合うことは、変化に対する反応速度の遅さや、経営の硬直性といった長らく抱える経営の根本課題に逃げずに向き合うことでもある。激変する外部環境を考慮すると、ここが最後の正念場だろう。アジアシフトをチャンスに変え、デジタル化を逆手に取った勝ちパターンを構築する覚悟を持つことを、日本企業に期待したい。

(photo: Hideji Umetani)

注釈
*1:1ゼタバイトは1テラバイトの10億倍。
*2:「機敏な、敏捷な」という意味の語。

 

岩渕 匡敦(いわぶち・まさのぶ)
ソフトバンクにて買収した米国企業の日本参入事業を担当後、複数シリコンバレー系企業でのマネジメント経験を経て現職。Deloitteにおけるデジタル化対応支援のブランド「Deloitte Digital」のコアメンバーの1人。自動車、電機ハイテク製造業、および通信企業のグローバルプロジェクトに多数従事。近年は欧米、中国、香港、韓国、東南アジア、南米地域での顧客戦略、マーケティング領域を中心に大規模な経営改革支援に取り組む。
 
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