Featuring Deloitte Digital
グローバル×デジタル化社会における
経営のイノベーション
岩渕 匡敦 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
イノベーションによるビジネスモデル変革
このような顧客行動が前提となるデジタル化時代においては、顧客調査やマーケティングだけでなくビジネスモデルそのものが変化を余儀なくされる。既存のビジネスモデルをデジタル情報の活用により素早く変容させ、時には産業の垣根をも越えて消費者の求めるものを即座に提供できる企業が勝者となるだろう。
たとえばSafaricomがケニアの学生に刺激されて開始したM-PESAというサービスが挙げられる。これは携帯電話のSMSで小額送金や決済を提供するもので、既存の銀行のビジネスモデルを一瞬で上書きした。また、NikeはXboxのKinectと組み合わせプロ同様のトレーニングを自宅で実現し、トレーニングジムの市場を奪った。このコンセプトの実現を支援したデジタル広告代理店のAKQA社Chief Creative Officerのレイ・イナモト氏曰く「広告の未来は広告ではない」。つまり広告業界でさえ、製品の広告ではなく、デジタルチャネルを通じ潜在ニーズを察知し、新しいビジネスをクリエイトする役割が主流になるのだ。
イノベーション創出の考え方
では日本企業はビジネスモデルをゼロから作り変えるべきなのだろうか。われわれはそうは考えない。イノベーションの本質は、既存の仕組みやサービスを組み替え、新しい価値を生み出すことである。われわれは図表3のフレームワークを用い、企業のイノベーションの創出を支援している。左側の青い領域は「仕組み」、つまり利益創出方法やビジネスプロセスなど構造的な領域である。中心の薄いオレンジの「製品」は企業の根幹となる製品そのものに関する領域であり、右の濃いオレンジの部分は「顧客経験価値」、すなわち顧客にかかわるサービスや接点の領域である。これらの3つの領域に包含される10の要素のどこに注力し、どの経営資源を組み替えるのか、そのなかでデジタル化の波がどのように影響するのか、また、デジタル化によって重要性を増すのはどこかを見極めることで、イノベーションが創出される。前述のM-PESAは「チャネル」の変革に主軸を置いた革命であるし、Hyundaiなど韓国系企業の成功は徹底的なフォロワー戦略に基づいて「収益モデル」と「製品性能」を組み替えたことに起因するといえる。