GMI report No.3
グローバル経営の作法
日置 圭介 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
グローバル経営の作法
日本には、世界から賞賛される成功モデルがあった。しかし、欧・米のグローバル企業が世界でビジネスを行うために築いてきた“作法”とは、見た目はわずかでも、結果としてはかなり異なるものになっている。現在においては、彼らがスタンダードであることをまず認識しなければならない。
作法として最も強いのは、わかりやすく表現された共通価値観である。これが常に求心力を持ち、企業の内外、つまりは社員と顧客の双方に多様性を抱えるグローバル企業の方向感を定めている。世界中でどれほど多様に事業を展開しようとも、基点となる価値観に立ち返ることで、ビジネスのスピードとリスク、何より「らしさ」というブランドをマネジメントすることができる。
また、未来を真剣に見通そうとする意識が非常に高く、経営者は正しい今と未来を見、リスクを取って進むべき方向を示す。そのため、既存ビジネスへの効率性要求は厳しくとも、未来を読むための投資は惜しまない。残念ながら、経営よりも運営に精いっぱいとなっている多くの現代日本企業の経営者にはそれができていない。
未来を見通す企業は、事業のポートフォリオのみならず、戦い方そのものを変化させることも厭わない。現在の主力事業から潔く撤退し、次代を担う事業に意志を持って投資する。撤退への障害や抵抗、モチベーション低下をマネジメントできてこその「たたみ方」、そして、10年後、20年後の世界や競争環境を広く長い視野で捉え、政策レベルを含めた未来のルール形成や新産業の創出にも先導的にかかわる「起こし方」が重要だ。
そして、組織が仕組み(機能)ベースで動いていることも作法の1つである。日本企業の特徴である人ベースの組織は柔軟性が高いとの指摘もあるが、グローバルで多様な人財が協働する組織では、リスクが人に依存する脆弱性のほうが懸念される。多様な人財が仕組みという作法を前提に、文化的な背景や価値観の多様性を共有しながら運営することで、日本的な「阿吽」に通じる経営が可能となる。
利益率の高さも含め、以上を少し乱暴に解釈すると、「転換」の準備を常に整えているというのが究極の作法といえよう。そしてここまで整える背景には、グローバルで勝ち続けていくための哲学や美学のようなものの存在があるのではなかろうか。