GMI report No.3
グローバル経営の作法
日置 圭介 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
浮かび上がる日本企業の姿
日本企業と欧・米企業の比較から、“群”としての動態の違いが明らかとなった。
日本企業の特徴の1つには、規模が小さい企業、多角化度が低い企業の収益性が高いことがあった。これらの企業は専業的に取り扱う製品・サービスをとことん磨き、世界一、世界唯一の技術で稼ぐ。いわゆるグローバルニッチトップ企業はこの代表例だ。日本らしい、こだわりや繊細さを追求することに強みを持つ企業が多いことが表れているのであろう。昨年、『グローバル経営戦略2013』(東洋経済新報社)でも述べたように、良い意味で「地味で小さい」が稼ぐ日本企業の1つの形といえそうだ。
一方で、規模が大きくなり、多角化度が高まると、技術やサービスの力だけで高い収益性を確保することは難しくなる。このような企業が高収益を達成するには、ポートフォリオマネジメントや全体視点からの仕組み化などをリードする経営能力が問われる。しかし、日本企業の事業シフトは重く、グローバルレベルで経営インフラが整っているとは言いがたい。企業の形に合ったこの手(作法)の経営を苦手としていることが収益性の低さにつながっているのではなかろうか。
成功の偶然性と失敗の必然性
では、欧・米企業の一群は、どのように「規模」と「範囲」を両立する状態を実現しているのか。経営学の実証的アプローチの1つに、数百に上る企業を材料とした、企業の成功と衰退の要素の研究がある*4。それらをひもとくと、成功企業に案外と共通項は少ない。絶対的な経営者がリーダーシップを発揮した場合もあれば、事業転換が功を奏した場合もあり、その偶然性と必然性を見分けることは難しい。
反対に、グローバル企業への道半ばで衰退した企業には、似通った傾向が見てとれることは興味深い。環境を不変と捉え、一時点の成功に安住し事業の転換に遅れをとる、顧客の声や経営指標などが示す事実を受け止めなくなる、規模の拡大のみを追求して安易に買収に走るなど、日本企業で今、起こっている現象と恐ろしく符合する。これらの危険な兆候から衰退への必然の深淵に陥らず、生存確率を高めるにはどう歩むべきか。