特別寄稿
哲学、美学がない企業に未来はなし

石井 裕 MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ 副所長

ビジネスパーソンに求められる
「出杭力」「道程力」「造山力」

日本はとても豊かな国だ。それが、日本で学び働く人々の大きなハンディにもなっていると思う。飢餓感が欠如しているのだ。

MIT、そしてMedia Labには、世界中から知的飢餓感と強烈な向上心を秘めた学生が集まってくる。日本以外のアジア諸国からも、多くの若者が入学試験に応募してくるが、皆ハングリー精神の固まりだ。一方で、日本人の学生はキャンパスに数えるほどしかいない。「海外雄飛」しようという日本の若者は、近年ますます減少しているように思える。世界という舞台で戦い、成長し、成功したいという願望が薄いのだろうか? あるいは日本があまりにも心地よいからだろうか?

あらためて考えてみてほしい。自分がどういう人生を送りたいのか。リスクを取らずに失敗の可能性を排除し、円満に定年退職まで働ければいいのか。それならそれで、かまわない。

しかし、もし「大きなリスクを取ってでも、新しい価値を生み出し、世の中に貢献したい」「100年後でも人々の記憶に残るような壮大な仕事をしたい」と思うなら、考えを改め、心地よい環境と決別しなければならない。

経営者も例外ではない。四半期の数字が出ればそれでいい、次の株主総会さえ乗り切ればいい、定年退職まで無難に過ごせればいい、と考えているトップを持つ会社の未来は暗い。ネット時代の消費者(=発信者)たちは、世界のベストプラクティスを見て学びながら、グリーン・ウォッシング(欺瞞的な環境配慮)のような「嘘」をあっという間に見抜く力を身に付けている昨今だ。美学、哲学がない会社、そして経営者は早晩、彼らの支持を失っていくだろう。

最後に、これからキャリアを歩んでいく若者に贈りたい3つの「力」を紹介する。「出杭力」「道程力」「造山力」の3つだ。

「出杭力」は、打たれても打たれても、突出し続ける力。日本的な組織においては、出る杭は必ず打たれる。新しいこと、面白いことをやるほどに「前例がない」「市場調査はしたのか」などと非難を浴びる。しかし、出すぎた杭は打たれない。出るならば徹底的に出るのが「出杭力」である。

「道程力」とは、地図なき原野に1人分け入って道をつくり、1人全力疾走する力だ。すでに存在している100メートルのトラックを人より早く走るのは、真の競争ではない。詩人の高村光太郎が「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」と詠ったように、自ら道をつくり、1人走り続ける力が「道程力」である。

「造山力」とは、冒頭でも触れた「自ら山を造る力」である。誰もまだ見たことのない山を海抜ゼロメートルから自らの手で造り、そして初登頂する力だ。

時には失敗や間違いを犯すこともあるだろう。しかし、失敗したくない、完璧でありたいとばかり願っていると、イノベーションは決して生まれないし、新しいものを生み出せない。当たり障りのない、中身のない、誰にでも言える、面白くない「正解」しか口にできなくなってしまうからだ。強烈な飢餓感をエネルギーとし、独創哲学を基軸としながら、これら3つの力を武器に、積極的にリスクを取って革新的なアイディアを、深いビジョンを追求してほしい。

そしてそれを世界に向けて積極的に発信し、「他流試合」「異種格闘技」の切磋琢磨のプロセスを通して磨き、世界に広めてほしい。それが、日本のビジネスパーソンが、ひいては日本企業がグローバルで活躍できるようになるための最短距離であると信じている。

石井 裕(いしい・ひろし)
MIT(マサチューセッツ工科大学) メディアラボ 副所長
1956年生まれ。80年、電電公社(現NTT)入社。86~87年、西ドイツのGMD研究所客員研究員。88年よりNTTヒューマンインターフェース研究所で、CSCWグループウェアの研究に従事。92年、工学博士。CSCW、CHIなどの国際会議の常連となる。93年から1年間、トロント大学客員教授。95年、マサチューセッツ工科大学準教授。メディアラボ日本人初のファカルティ・メンバーとなる。 2006年、国際学会のCHIより、長年にわたる功績と研究の世界的な影響力が評価されCHIアカデミーを受賞。2007年から現職。

 

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