福島作業員を蝕む「違法雇用」と「過酷労働」 作業員を襲う、もうひとつの「汚染」
避けられない下請け依存、届かない監視の目
末端作業員への搾取がなくならない福島第1原発の実態について、雇用ピラミッドの頂点に立つ東電はどう考えているのか。
同原発の廃炉や地域の除染に必要な時間と作業量があまりにも大きく、自社だけでは人員も専門技術も不十分で、下請けに任せるしかない、というのが同社の現状だ。 同社は下請け作業や雇用の実態まで十分に監視できていないと認める一方、下請け業者は、作業員の酷使や組織的犯罪への関わりを防ぐ措置を実施していると強調する。
あっせん業者による給料の横取りを防ぐために、雇い主と管理企業が異なるような雇用形態は禁止されているが、東電が昨年行った調査では、福島第1の作業員の約半数がそうした状況に置かれていた。同社は元請け会社に労働規制の順守を求める一方、作業員の疑問に答えるため、弁護士が対応する窓口も設立した。さらに、厚生労働省による労働規制の説明会を下請け業者向けに開いたほか、6月には、新しい作業員に対し、不法な雇用慣行を避けるための研修を受けるよう義務付けている。
待遇改善が進まない背景には、東電自体が金融機関と合意した総合特別事業計画の下で厳しいコストカットを要求されているという現実がある。同社はすでに2011年の震災後に社員の賃金を20%削減した。業務委託のコストも厳しく絞りこまれており、結果的に下請け労働者の賃金が人手不足にもかかわらず、低く抑え込まれているという現実を生んでいる。ロイターがインタビューした福島第1の現場作業員の日当は平均で1万円前後で、一般の建設労働者の平均賃金よりはるかに低い。
賃金や雇用契約の改善のみならず、現場での作業の安全性が確保されなければ、廃炉や除染事業そのものが立ち行かなくなる懸念もある。今年10月、作業員が淡水化装置の配管の接続部を外した際に、作業員計6名が高濃度の汚染水を浴びる事故が起きた。8月には作業員12名が、原子炉からがれきを取り除いていた際に被ばくした。
こうした事故の続発を受け、原子力規制委員会の田中俊一委員長は、不注意な過ちを防ぐには適切な監督が重要だ、と指摘。現時点で東電は下請け業者に作業を任せ過ぎている可能性があると述べている。
福島労働局によると、通常の業務委託は2次か3次の下請けぐらいまでだが、福島原発の廃炉や除染事業については、膨大な作業量を早急に処理すべきという社会的な要請が強く、下請け企業を大幅に増やして対応せざるを得ない。雇用者が下請け企業や作業員をしっかりと選別できないという現状の解決が最優先課題という。
「下請け構造が悪いとはいえない。労働者が全然足りない状況にあるということが大きな問題だ」と同局の担当者は指摘する。「廃炉や除染事業にヤクザの関与を望む人は誰一人いないはずだ」。
(文中、敬称略)
(Antoni Slodkowski、斉藤真理;編集 北松克朗、石黒里絵、田頭淳子)
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