「人間以外との恋ゲーム」にハマる若者の心理 なぜハトやゾンビとの恋愛なのか

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『エジコイ!〜エジプト神と恋しよっ〜』の画面(写真:プレイ中の画面を筆者が撮影、提供)

空いた時間にゲームを進め、2カ月間ほどハマって遊んでいた。動物などを対象とするほかの恋愛もののゲームでは、たいていキャラクターが擬人化されている。しかし、エジコイにおいては登場キャラクターの顔は神そのままの顔であることがシュールで面白かったという。しかも壁画に描かれたエジプトの神々がモチーフとなっているため、ずっと横しか向いていないキャラクターがいることも面白いらしい。

倒れたところをキャラクターが支えてくれるような、いわゆる恋愛ゲームによくあるシーンできゅんとして、SNSでシェアしたと話した。しかし、一般的な恋愛ゲームとは違って、セリフの選択を間違うとあっけなく主人公が死んでゲームが終了してしまうなど、斬新で面白い要素もあるのだという。恋愛ゲームらしい要素とそうではない要素の組み合わせが絶妙で、ときめきながらも適度に裏切られるところがウケている理由かもしれない。

ほかの恋愛ゲームはあまりやったことがないというCさんだが、「エジコイ!」はキャラクターがイケメンすぎないことで逆に抵抗感がなくなり、面白いコンテンツとして楽しめたそうだ。そしてCさんは、このゲームにハマっていた時期、特に女子として枯れている、こじらせている自覚があったという。いわゆる恋愛ゲームやイケメンキャラクターにはハマりきれないが、一癖あるキャラクターやストーリーを面白いと感じる女子はひそかに増えているのかもしれない。

傷つかない自己完結的な世界

このように、最近の若者の間では、人ではない相手と恋に落ちる奇妙な恋愛ゲームが広まっている。普段恋愛ゲームや携帯ゲームをあまりやらないような若者の間でも「見たことがある」「聞いたことがある」という人は多く、一部のゲーム好きの間で流行っているだけではないようだ。

こうした流行の背景には、近年よく言われている「若者の恋愛離れ」が関係しているだろう。恋愛に対して「面倒である」という意識が強く、リアルな恋愛を敬遠する傾向にある若者は明らかに増えている。しかし、本当に恋愛から離れているのであれば、恋愛ゲームで遊ぶことすらしないはずである。奇妙な恋愛ゲームが流行しているのは、若者が潜在的には恋愛に興味を持っているからではないだろうか。

本当は恋愛に興味があるけれど、生々しいリアルな恋愛に対しては面倒くささや抵抗を感じている。そればかりか、現実の延長上にある従来の恋愛ゲームにすら抵抗感があり、ゲームの中でも恋愛に対して消極的になってしまっている。だからこそ、恋愛ゲームで遊んでいると自覚させずに恋愛要素も楽しめるような、現実離れした面白い設定の恋愛ゲームがウケているのではないか。

今回インタビューした人々は、「彼女が欲しい」と公言していたり、少女漫画や恋愛ゲームといったコンテンツには興味があったりするものの、現実では恋愛を面倒だと感じているような人ばかりであった。

理由の2つ目として考えられるのは、「恋愛をネタ的に考える自分」を自虐的にとらえていることである。近年、Dさんのように「自分はこじらせている」「自分は女子として枯れている」ことを自覚し、さらにはアピールまでするような若者が増えている。

実際、テレビドラマで人気化した「東京タラレバ娘」をはじめとして、「恋愛が下手な自分」を主人公としたドラマや漫画が近年、共感を集めている。今回取り上げたような奇妙な相手との恋愛ゲームをSNS上でシェアすることは、ゲーム自体が一風変わっていることから「いいね」を得やすいだけではなく、恋愛をネタ的にとらえていると周囲にアピールすることにもつながるだろう。そういった自虐的なアピールによって、人から恋愛面などについて何か指摘される前に自ら言い訳をしているとも言える。

「ゆとり世代」「〇〇離れ」と消極的な面を指摘されてきた今の若者たちは、開き直って積極的に自虐的なアピールをするようになってきているのかもしれない。

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