行き場を失う、横浜市の放射能汚染焼却灰 市長選を前に、住民や港湾業者が“異議申し立て”

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市は「国の考え方は妥当」と住民に説明する一方、国には神奈川県や県内のほかの自治体とともに「緊急要望書」を11年11月1日付けで提出している。そこでは「日々増え続ける汚泥焼却灰に県民から不安の声が上がっている」こととともに、「1キログラム当たり8000ベクレルの『比較的低濃度』の汚泥焼却灰についても国が具体的な処分方法を明示し、国の責任で最終処分場を確保すること」「処理に当たって安全性が確保される基準値を法令で定め、国が示した基準に基づく処分の安全性について国民に十分な周知を図ること」などが述べられている。

しかし、国は「8000ベクレル」を金科玉条とする一方で、実効性のある対策が打ち出されないまま現在に至っている。

前出の水上氏が厳しい口調でこう語る。

「かつてアスベスト問題では、われわれ港湾事業者や労働者は、国がいっている『安全』を信じてひどい目に遭った。今回の原発事故でも外国の貨物船が横浜港への入港を避ける動きが相次ぐなど、風評被害で大変な苦労をした。そうした苦い経験があるうえ、放射能で汚染された焼却灰が埋められた跡地が安全だとの確信が持てない以上、埋め立て処分を容認することはできない」

問われる林市長の指導力

原発事故から2年半近くが経過する中で、汚泥焼却灰に含まれるセシウムの濃度は確かに下がってきている。8月1日のデータでは、北部センターの汚泥焼却灰の濃度は1キログラム当たり604ベクレル、南部センターのそれは494ベクレルに低下している。しかし、横浜港運協会が主張する「(再利用の基準である)1キログラム当たり100ベクレル以下」にはほど遠く、セメント会社もいまだに引き取りを拒否している。

廃棄物問題に詳しい森口祐一・東京大学大学院教授は、「1キログラム当たり8000ベクレルでの線引きは、原発事故後に汚泥処理が立ち行かなくなる中で暫定的に決められたもの。ワーストケースを想定した場合の被曝量から導き出されたものの、決定過程がわかりにくく、不信感が残った。事故以前からの再生利用の基準と比べた場合に基準緩和に見えるうえ、全国一律の運用でよいのかどうかの議論はなされなかった」と指摘する。

「国の安全基準は満たしている。住民の皆様にはご理解いただくしかない」(市担当者)というだけでは、解決の糸口を見出すのが難しい。人口380万人の巨大自治体を束ねる林市長の指導力、そして住民や事業者との対話能力が問われている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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