「一人旅歓迎」の温泉宿はなぜ増えているのか 一部の旅館が気づいた、意外と多いメリット

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第一には、「一人旅のお客様はなじみになってくれやすい」ためだ。宝巌堂の利用客用には宿泊の度にスタンプがもらえるスタンプ帳があるが、これもリピーターが多いゆえのこと。栃尾又温泉の秘湯感から「東京からのお客様が多い」というのもうなずける。「改装して値段が倍になっても、古くからのお客様が通ってくる」というのも宝巌堂の魅力のなせる業だろう。

第二には、「平日を埋めてくれる」こと。それも「連泊してくれる方もいる」のは旅館にとってはうれしいことだ。2人以上で旅をする場合、どうしても相手の都合があり、最大公約数的に旅行日を選ぶと「週末」になってしまうことが多い。そのため、平日に泊まってくれる一人旅客は旅館にとってありがたいお客様なのだ。

そして、第三の理由が、実は家族経営の宿にとって最大の理由かもしれない。それは、「一人旅のお客様は文句が少ない」ことだ。

栃尾又温泉でも文句を言おうと思えば、いくらでも想像できる。例えば、「階段が多い」「虫がいる」「部屋に風呂がない」「館外までいかなくては温泉がない」「温泉がぬるすぎる」「食事時間の融通が利かない」「食べられない食材がある」等々。総じて「おもてなしがなってない」と帰結されてしまう。ブランドホテルならともかく、小さな家族経営だ。現実問題、至れり尽くせりとはいかないのはちょっと考えればわかりそうであるにもかかわらずだ。

宝巌堂の階段。ここから共同湯へと出向いていく

「天動説の旅人」と「地動説の旅人」

旅人には、2種類いると筆者は思っている。いや、同じ人でもジキルとハイドのように二面性を持つと言ったほうが正確かもしれない。それは「天動説の旅人」と「地動説の旅人」だ。

「天動説型」とは「宿が自分に合わせてくれる」ことを期待する旅人のこと。宿によっては、客に合わせることを「おもてなし」だと言う。「客に合わせるのは宿として当然のことだ」と思われる方も多いかもしれないが、「もてなし」とは茶の湯の時代から主客対等な関係のうえに成り立つもの。客に仕えるかどうかはその宿のサービスのあり方であって、普遍的な「もてなし」ではないと思う。しかし、2名客以上になると、同伴者のことを過剰に気遣ってしまうせいか、この「天動説型」が一気に増える。

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