安倍氏がたとえ第二次世界大戦や「慰安婦」についてこれ以上の問題発言を控え、国会議員による靖国参拝を抑えるよう努めたとしても、安倍氏が自分の評判を傷つけてしまったという事実は変わらない。加えて、今回の行動により、日米韓3カ国による協力に深刻な混乱を生じさせてしまった。米国の多くの専門家は、安全保障問題について3カ国の協力が機能しなくなると、米国にとっても、日本にとっても、国益が損なわれると主張している。
2012年12月に安倍氏が首相として再登場した当初、安倍氏は、小泉純一郎元首相の官房長官を務めていた当時に共に仕事をしたことのある、影響力の強い日本専門家グループの支持を得た。彼らは、「安倍氏は前向きな戦略的思考の持ち主であり、あえて問題のある歴史認識を持ち出して北東アジアの外交に緊張をもたらすようなことはしないだろう」と主張した。
しかしワシントンには懐疑的な見方をする人もいた。彼らは、安倍氏は国家主義的な傾向を抑えることができず、または抑えようとはせず、この地域に緊張をもたらす原因となりかねない、と不安視していた。
歴史論争の歯止めは解かれた
今年2月に安倍氏がワシントンを訪問した際には、この懐疑的な見方をする人たちが、安倍氏に対するホワイトハウスの対応を方向づけた。バラク・オバマ大統領は日本を歓迎する姿勢は示したが、安倍氏には距離を置いた。オバマ大統領は、安倍首相との共同記者会見を設定しなかった(安倍氏の前任者である民主党の野田佳彦首相が訪米した際にオバマ氏が示した対応とは、くっきりとした違いが見られる)。
また、米国政府関係者は、安倍首相が重視しようとしていた2つの話題、つまりあからさまな中国批判と「集団的自衛」推進に関する話題を避ける日程を慎重に練り上げた。
2月に日米首脳会談があって間もなく、安倍氏の言動が、北東アジア地域に緊張を引き起こし始めた。安倍氏は、韓国の朴槿恵新大統領の就任式に出席しなかった(これまで3代の韓国大統領の就任式には、日本からは首相が出席していたにもかかわらず)。島根県主催の「竹島の日」の式典には、地位の高い政府高官を代表として出席させた(北朝鮮が深刻な挑発をすでに始めていたことから、韓国が反発するのは目に見えていたにもかかわらず)。
そして4月の後半になると、安倍氏は、第二次世界大戦中の日本の政策は「侵略」であったとする捉え方を拒否し、それに関連して1995年の村山談話の主要部分を暗に否定し、歴史問題に関する論争の歯止めは解かれた。また安倍氏は、1993年の河野談話の真実性にも疑問を投げかけた。河野談話では、朝鮮人をはじめとする何千人もの女性が旧日本軍によって性奴隷となることを強要された、と公式に認めている。
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