異例の「刑免除」判決で露呈した検察のずさん 「誤った起訴」に対し裁判所が踏み込んだ判断

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「刑の免除判決は、そもそも年に0~2件程度しかないとされています。そのうえ、公開されているものの多くは、親族間の犯罪であることを理由とするものです。検察官の起訴が不当であることを理由とする本件のような判決は、異例中の異例です」

捜査のあり方に警鐘を鳴らす、意義ある判決

「本件は、事故直後の診断で被害者の傷害の程度が極めて軽いと診断されたこと等から、一度不起訴処分とされました。にもかかわらず、被害者の執拗な働きかけを鵜呑みにした検察官が、十分な捜査をすることなく『症状固定までに約244日間を要する肋骨骨折等の傷害』を理由に公訴提起をしたという、本来あってはならない事案です。

検察官の証拠構造に異変を感じた弁護人は、期日間整理手続に付してもらったうえで、徹底的な証拠開示(事実上の補充捜査)を求め、本来であれば検察官が収集しなければならない客観的な証拠を入手して分析し、立証(反証)活動を行いました。

その結果、そもそも検察官が公訴事実の中心としていた重い傷害結果である肋骨骨折が存在しないこと(正確には交通事故よりも後に骨折が生じていること)、被害者が訴える痛みは交通事故ではなく、うつ病に起因している可能性が極めて高いこと等が判明しました。

もしも、被告人が勇気をもって全面的に争わなかったら、被告人は、自らの行為が原因となっていない肋骨骨折やうつ病による痛みを理由に処罰され、えん罪が生まれていたことになります。

検察官は、弁護人による弁護活動により明らかになった事実を受けて、証拠調べが終わった段階で、自ら、『加療約2週間を要する頚椎捻挫等の傷害』に訴因変更をしてきました。証拠調べが終わった段階で、このような内容に訴因変更すること自体、極めて異例であり、検察官が誤って起訴をしてしまったことを認めたことの何よりの証左です。

裁判所も、事の重大性を認識し、『検察官が証拠を慎重に検討していれば、そもそも被告人が起訴されなかった可能性もある』という踏み込んだ判断をして、実質的には無罪ともいえる刑の免除判決を言い渡しました。

横浜地方検察庁が控訴を断念したため、判決は確定しています。本判決は、捜査機関の捜査のあり方に警鐘を鳴らす、社会的に意義のある判決であると考えています」

増田 智彦(ますだ・ともひこ)弁護士
大学卒業後、麒麟麦酒株式会社法務部で実務経験を積んだのち、弁護士への転身を果たす。企業法務、M&A、事業再生・倒産法務、刑事弁護等を得意分野とし、実務感覚を活かして他の弁護士とは一線を画す仕事を心がけている。
事務所名:東京丸の内法律事務所

 

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