保険に入るよりも、貯金をしたほうがいい 「貯金は三角、保険は四角」というマヤカシ

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敗戦後の荒廃した世の中で国民にとって最優先だったのは、働いてお金を貯めることでした。一方、当時の国情は、とても社会保険制度を整備できる状況にありません。十数年後、ようやく国民皆保険制度(健康保険、年金保険)がスタートする1960年代まで、民間保険の果たす役割は重要でした。こうした時代、国民の貯蓄ニーズを満たしながら、未整備の社会保険制度を補えるものとして、養老保険が再び脚光を浴びることになります。

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再出発した生保業界にとって、戦争復興期の男性の求人難の中で、新たに女性を中心とした販売ネットワークの構築が急務でした。そんな彼女らにとって、養老保険は説明しやすい、取扱いやすい商品でした。また国民にとっては、貯蓄ニーズを満たし、同時に最小限の保障を得ることのできる商品です。戦後の混乱のなか、国としては保険業界を後押しして養老保険の普及を図ることが、取り得る最善の政策でした。

こうした国民、政府、保険業界にとり、いわば「三方よし」の時代は、1960年代まで続きます。

その後、日本経済の成長発展とともに、インフレの進行や核家族化の進展が進み、生保業界は徐々に、保障額の大型化に販売の軸足を移し始めます。当初、死亡した場合は満期の2倍の保障という保険が主流でしたが、やがて3倍→5倍→10倍→20倍と保障の高額化が進められ、保険業界主導の大型保障ブームが巻き起こります。

多くの国民が、保険会社に勧められるまま、大型の生命保険に入りました。この流れの中で、日本人の「保険は入るもの」という不思議な保険観が醸成されていきます。そして1990年代からの「がん保険」ブーム、そしてその後の「医療保険」普及に連なっていきます(「要注意!日本の医療保険は看板に偽りあり」参照)。

社会保険制度とともに変わっていく保険の役割

そして現在、日本の社会保険の財政基盤が揺らいでいます。年金保険、健康保険を始め、これからの社会保障制度の枠組みをどのように組立て直していくのか。政府が取り組んでほしい政策課題として、国民が最優先に求めているのが社会保険問題です。今や抜本的な改革が待ったなしの状況です。そして社会保険制度が変われば、それを補完する民間保険の役割も変わらざるを得ません。

かつて「四角い」養老保険が演出した「三方よし」の枠組みは、どのように再構築されるのでしょうか。と言っても、養老保険が再び主役としてカムバックすることはないでしょう。保険商品、保険サービスは、その時代の社会経済状況に応じて変わっていくべきものだからです。

では、国の社会保険制度が変貌していく中で、新たな国民のニーズに対応する民間の保険とはどのようなものなのでしょうか。三角でもなく四角でもない、新たな保険の形を手探りする時代が、もうそこまで来ています。次回の水曜日はお休みをして、6月からは隔週水曜日にお届けします。

橋爪 健人 保険を知り尽くした男

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はしづめたけと / Taketo Hashizume

1974年東北大学卒、1984年米国デューク大学修士。日本生命保険に入社後、ホールセール企画部門、米国留学、法人営業部門を経て米国日本生命副社長。帰国後、損保会社出向、ジャパン・アフィニティ(保険ブローカー会社)代表取締役を経て2004年独立。企業向け保険ビジネスのコンサルタントとして活動。著書に『日本人が保険で大損する仕組み』(日本経済新聞出版社)

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