保険に入るよりも、貯金をしたほうがいい 「貯金は三角、保険は四角」というマヤカシ

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さて、貯蓄と保険。どちらが大切なのでしょうか。貯蓄はどのような目的にも使えます。もちろん、万一の場合のリスクにも対応できます。いわば万能薬です。しかし、万能薬でも治せない病気にかかることがあります。それは、貯蓄額をはるかに超える大きな損害額のリスクの発生です。このような、貯金ではとうてい対処できない大きな不幸の発生に備えるのが保険です。

ですから貯蓄か保険かの二者択一ではなく、組み合わせが重要です。貯蓄と保険の優先順位についての議論を時々見かけますが、生産的ではありません。保険の基本的な機能は保障です。貯蓄と上手に組み合わせてバランスをとることで、人生のかなり多くのリスクを乗り越えることができます。

生命保険の主役だった「四角い保険」

さて、四角の保険の中で代表的な保険があります。死亡保険金と満期保険金が同額の生命保険です。「養老保険」と呼ばれています。例えば、期間10年で100万円の養老保険では、いつ死んでも100万円もらえます。死ななければ10年後(満期時)に100万円戻ってきます。この四角い養老保険は、日本の生命保険の歴史に大きな役割を果たしました。

日本の生命保険事業は、明治初期、福沢諭吉によって欧州の近代的保険が紹介されたことから始まります。しかしすぐに生命保険が広まったわけではありません。それどころか、人の死を扱う生命保険は、「不吉」「縁起でもない」「保険に入れば早死にする」と長い間、人々に忌み嫌われました。

また日本人は伝統的に貯蓄思想が強く、他方、当時はまだ血族内で助け合う家族制度が保障機能を担っていました。人々が、独立した近代市民として生命保険の保障機能を受け入れる余地は、まだまだ少なかったのです。そこで考え出されたのが、四角い「養老保険」でした。

養老保険は、生命保険というよりは「貯蓄にオマケの保険が付いたもの」として工夫された商品です。英語の「Endowment insurance」の訳語ですが、Endowmentとは「基本的な財産」という意味です。名前である「養老」の語意そのものが「老後のための貯金」を表しています。ですから、養老保険はもとから貯蓄することが目的の保険で、いわば「オマケ保険付き貯金」でした。払った保険料は、確実に手元に戻ってくるので、貯蓄好きの国民性にも合っていました。このように、装いを変えることで、生命保険のメインテーマである「死」と「保障」の問題を避けようとしたのです。

この作戦が少しずつ功を奏します。明治の中頃になると、それまで主力だった終身保険から養老保険が主流を占めるようになります。そして、大正時代には生命保険といえば、ほぼ養老保険一色になります。スペイン風邪の大流行や関東大震災も乗り越え、生命保険業界は順調な発展を遂げていきました。ただこの流れは、昭和に入り第2次大戦で中断されます。敗戦により生命保険業は壊滅的な打撃を受けたのです。

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