中田敦彦「松本人志への提言」が他人事でないワケ なぜこれだけ大騒ぎになったのか?

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これらは「漫才だけがお笑いではない」という主張に加えて、自分の芸がアウトサイダーのような扱いを受けたことへの不満によるものでしょう。笑いとは真逆の「偉いか偉くないか」という基準で批判しているところに嫌悪感が見えますが、その裏には「漫才が好きな芸人が集う世界は生きづらかった」という思いも透けて見えます。

中田さんは「権力が集中している」と語っていましたが、松本さんは業界のシンボルである一方で、どこまで権力を得ているのかはわかりません。たとえば「M-1グランプリ」は2020年大会まで5年連続で「最終決戦で松本さんが選ばないコンビが優勝する」というジンクスがあったことからも、絶対的な権力を持たされていないことがわかるでしょう。

つまり、大物の松本さんも、「テレビ番組や賞レースという組織の一部」ということ。「組織の一部に過ぎない人に権力が集中している」と決めつけてしまう人が、それ以外の大きな権力も存在する組織で生きづらさを感じるのは当然かもしれません。

たとえば、「自分が評価されない理由は何なのか。誰が原因なのか」と考えて敵を探し、必要以上の敵意を抱いてしまう。あるいは、上司、同僚、後輩らに毒気のある言葉を発して間接的に巻き込んでしまう。どちらもビジネスシーンで見られる“組織で生きづらさを感じる人”の典型例ですが、今回の中田さんはピッタリ当てはまっていました。

「自分の能力に自信を持ち、価値観にこだわって、それを強みにしていく」というスタンスは素晴らしいことであり、成功を収めるケースも多々あるでしょう。しかし、そのスタンスを貫きながら組織の中で生きていくのは容易ではなく、とりわけ個人の尊重や協調が重視される近年では悪目立ちしがちです。

松本人志の反応と対面の実現性

ところがネットの世界では、その悪目立ちしてしまうスタンスをビジネスとして活用することが可能。今回のように、組織に向かなさそうなタイプの人が、組織に立ち向かうような言動をすれば、「自分も組織に向いていない」という自覚のある人々の共感を集めやすいところがあります。内容の是非はさておき、その意味で今回の動画は、響く人には響くものだったのではないでしょうか。

5月30日に松本さんが自身のツイッターに、「テレビとかYouTubeとか関係なく2人だけで話せばいいじゃん 連絡待ってる!」とつぶやいていました。中田さんを思わせる言葉であり、今後何らかの展開につながっていくのかもしれません。

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