中田敦彦「松本人志への提言」が他人事でないワケ なぜこれだけ大騒ぎになったのか?

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松本さんが今年新設されたお笑い賞レース「THE SECOND」のアンバサダーに就任したのも、「やりたくてやった」というより、「お笑い業界や芸人のために受けてあげた」とみるほうが自然でしょう。そもそも松本さんがアンバサダーを引き受けることのメリットは薄く、「松本さんに集中しすぎ」と叩くとしたらオファーしたフジテレビのほうでしょう。同様に「M-1グランプリ」のABCテレビ、「キングオブコント」のTBS、あるいは、多くの番組にかかわる吉本興業、賞レースに提供するスポンサー企業などにも、「そろそろ交代を」と提言するほうが筋は通っています。

これ以外にも、「松本さんの代わりを誰がやるのかに言及しない」「松本さん不在の賞レースが衰退しないか」などの論点にふれない今回の動画には、アンフェアさが多分に感じられました。頭のいい中田さんがこの点に気づいていないはずがなく、あえて本質に踏み込もうとせず、論点をシンボリックな存在の松本さんの責任に一点集中したのでしょう。

また、今回の明らかにアンフェアな提言は、「ネット上に自分への疑問や反論の声を誘って反響を大きくしよう」という意図を感じさせられました。そのアンフェアさや、すべてを語らないことが、疑問や反論を引き出し、今後の展開につなげていく……語り口やフレーズ選びも含め、アンチを巻き込んで視聴数を増やす配信者ビジネスの常套手段に見えるのです。

「20年間、松本さんは松本さんを超える才能を発掘できなかったんです。発掘できなかったのか、どうなのか。それとお笑い界は今、向き合わなきゃいけないって僕は思うんですよ」

42分53秒もの長い動画になれば、発言がエスカレートしてこのような行きすぎたコメントが生まれてしまうのも当然かもしれません。松本さんは才能を発掘するマネジメント側の立場ではなく、1人の審査員だけで才能を発掘しろというのも難しいでしょう。

にじみ出る満たされない思い

さらに中田さんは終盤で松本さんとジャニー喜多川さんを「物が言えない空気」という点で並び立てていました。性加害の渦中にある人物との比較は暴論そのもの。ビジネスパーソンも発信するツールの種類を問わず、長尺・長文になるほど、エスカレートして行きすぎたコメントにつながりやすいことを覚えておいてください。

「動画の反響が広がり続けている理由」として考えられるものがあと2つあります。その1つ目が、満たされなかった思いへの執着

「松本さんが『面白い』って言うか言わないかで新人のキャリアが変わるんですよ。その権力集中っていうのは、『それだけ偉大な人だから求められているんだ』という見方があるんですけど、『求められている』ってことと『実際にやるかどうか』は違う。『実際にやることが業界のためになるかどうか』で言うと、あまりためにならないと思う。ひとつの価値基準しかない。それ以外の才能は全部こぼれ落ちるからなんですよ」

次ページ終盤には中田さんの感情がにじみ出る
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