「台湾に一番近い島」で今起きている驚くべき事態 ミサイル配備なのに、住民避難先は「公民館」

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与那国島の東部にある放牧地帯。この近くにミサイル部隊が配備される(写真:筆者撮影)

1月26日、衆議院の本会議場。日本維新の会・馬場伸幸代表の声が響き渡った。「台湾に近い先島諸島の住民およそ10万人の避難対策は最優先の課題だ。地下シェルターは国民保護の重要な手段だが、先島諸島には1つもない。いつまでに整備する方針か」。

1月23日の通常国会召集以降、国会では衆参の本会議や予算委員会などを舞台に、政府が昨年末に決定した防衛費の増額問題で与野党の論戦が続いている。

全国紙や在京メディアの多くは、2027年度以降、増額分の財源を確保するため増税が想定されている点に焦点を当てている。それは当然としても、台湾に近い沖縄県下の島を取材すれば、馬場氏が指摘したとおり、いち早く解決すべき課題が見えてくる。

反撃能力保持で揺れる与那国島

「政府が昨年末に決定した防衛3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)で反撃能力の保持を盛り込んだことは、これからの安全保障を考えるうえで大きなステップになったと思います」

こう語るのは、元自衛隊統合幕僚長の河野克俊氏である。河野氏はさらに続けた。

「これまで日本には、守るという『盾』の役割しかなかったわけですが、『矛』という攻撃の役割も担うことになりました。こちらも反撃しますよ、ということになれば、相手国はひるみ、何よりの抑止力になります。良い方向に進んだと思います」

筆者もこの考え方に異論はない。ただ、敵基地を攻撃できる中長距離ミサイルが配備される可能性がある自治体にとっては、「はい、そうですか」とはならない。

その代表格が沖縄県与那国町だ。

一般的に与那国島として知られる与那国町は、馬場代表が懸念を示した先島諸島(沖縄県の宮古列島と八重山列島の総称)の1つだ。人口は約1700人で日本の最西端に位置する。台湾とは110キロ程度しか離れておらず、時折、台湾軍による演習の砲撃音も聞こえてくる「台湾に一番近い島」である。

政府が防衛3文書の改定と防衛費増額を決めたのを受け、筆者は住民への取材を始めた。そこで聞かれたのは困惑の声ばかりであった。

「2016年に陸上自衛隊の駐屯地ができたときは、反対ではありませんでした。しかし、敵基地を攻撃できるミサイル部隊まで設けるとなると、話は別です」(50代男性)

「中国の動きを見ていますと、やむをえないことかもしれません。でも、中長距離ミサイルを配備する前に納得がいく説明がほしいです」(30代女性)

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