沖縄で自衛隊の新訓練所計画が失敗した理由 軍事的合理性と地元感情が対立する構造続く

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陸上自衛隊勝連分屯地へ向かうため、港に陸揚げされた陸自の車両
陸上自衛隊勝連分屯地へ向かうため、港に陸揚げされた陸自の車両(写真:共同通信)

沖縄本島の中部に位置するうるま市石川のゴルフ場跡地に、陸上自衛隊の訓練場を新設する計画が明らかになった。しかし、玉城デニー知事や県内与野党に加え、保守寄りといわれる地元市民・自治体もこぞって反対。計画の実現はもはや難しいと見られている。

本稿では、まず農業が主産業の人口12万7000人弱(東京都小金井市とほぼ同規模)のうるま市で起きた問題に、なぜ沖縄をあげて反対が起きたのか解説する。そのうえで、なぜこの場所に陸自訓練場が必要だと国が考えたのか詳しく説明する。

結論を先取りすると、この訓練場新設計画こそは、2022年12月に岸田文雄内閣が閣議決定した、安保三文書における「反撃能力」の実態を明らかにするものである。キーワードは米軍基地の「継戦性」と「抗堪性(こうたんせい)」だ。

自民党沖縄県連すら反対

3月7日、沖縄県議会が訓練場新設計画の白紙撤回を求める意見書を全会一致で可決し、沖縄防衛局に提出した。まさかの自民党沖縄県連も一致団結した沖縄側の反対に直面しても、木原稔・防衛大臣や伊藤晋哉・沖縄防衛局長は「白紙撤回はない。土地取得後の利用の在り方を検討する」と表明してきた。

しかし同月18日には、沖縄選出の島尻安伊子・衆議院議員(自民党)が島袋大・県連幹事長とともに、国会内で木原防衛相に白紙撤回を求める要請書を提出。これまで言及しなかった、うるま市の土地取得自体の断念を求めた。

防衛相は「重く受け止める」という旨の回答にとどめたが、こうなると防衛省としては、うるま市での用地取得を断念し、県内の別の場所での用地確保に望みをかけるしかない、というのが沖縄タイムスと琉球新報の県内2紙の見立てだ。

今回の計画は、那覇駐屯地に司令部をおき、宮古島・石垣島にも展開する陸自第15旅団の将来的な「師団」格上げ構想の一環として、約20ヘクタールの東山カントリークラブ跡地を取得、訓練場として整備するというものだ。「師団」化に伴い普通科連隊を1個から2個に増やし、現在の約2500人から3000人規模にすると訓練が増える、というのが訓練場新設の理由だ。新年度予算案には、この計画を含む沖縄県内の施設整備費として473億円を計上している。

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