沖縄で自衛隊の新訓練所計画が失敗した理由 軍事的合理性と地元感情が対立する構造続く

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日本共産党の赤嶺政賢議員は3月15日の衆議院安全保障委員会で、訓練場新設計画の候補地選定の経緯をただした。赤嶺氏は、宮古島や石垣島などへの陸自配備では委託調査を行い、候補地ごとに周辺の学校や医療施設、住宅地、自然環境などを調べていたと指摘。それに対して、木原防衛相は今回、部外への委託調査は実施していないと答弁した。

嘉手納基地から車で30分以内

これは、赤嶺氏が批判するように、「ずさんな調査」でうるま市に決めたことを意味するのか。恐らく、そうではない。防衛省には、この場所であるべき理由があった。自衛隊の沖縄本島の各拠点からアクセスしやすいからだけではない。もっと重大な理由が存在する。それは、このゴルフ場跡地が、米空軍嘉手納基地から車で30分以内の場所にあることだ。

近年、アメリカの軍事専門家の間では、中国の中・長距離ミサイルの脅威に対して、海外の米軍基地が脆弱であることが問題視されている。台湾海峡に最も近い米空軍基地である嘉手納基地は、台湾有事の際には最前線の重要拠点となる。

だが、中国軍の戦術弾道ミサイルや陸上発射型巡航ミサイルは、容易に嘉手納基地に壊滅的な被害を与え、地上に駐機する米軍機を破壊できるとされる。その対策として、軍事作戦を継続できる継戦能力と、兵力や装備などを敵の攻撃から守り維持する抗堪性を強化することが早急に求められている。

具体的には、まずはミサイル防衛が考えられるが、装備品や運用にかかる費用が高額なのがネックとなっている。次善の策として、嘉手納基地の部隊の分散配備や、飛行場損傷修復資機材保管施設の建設、同基地に隣接する嘉手納弾薬庫地区の弾薬貯蔵施設の半地下化などが現在進行中だ。

とはいえ、ミサイル防衛もできるものならぜひ実現したい。そこでアメリカは、同盟国である日本に対して、中国のミサイルの脅威にさらされながらも、米軍が九州沖から沖縄、台湾、フィリピンそして南シナ海に至る第一列島線にとどまって軍事作戦を行うために、米軍を支援する能力を提供するよう要請してきた。これこそが、安保三文書で表明された日本の反撃能力の保有につながっている。

中国の台湾全面侵攻シナリオでは、中国が台湾の防空施設を破壊し、台湾海峡では海と空で軍事的優勢を得て、米軍が台湾に接近できないようにしたうえで、機甲部隊と兵員が台湾に上陸する想定だ。しかし、日本が射程1500km以上の長射程ミサイルを配備すれば、嘉手納基地はじめ全国の在日米軍基地に飛来する中国のミサイルを迎撃するのに加え、台湾海峡に進出した中国の強襲揚陸艦(上陸作戦の際に兵員や装備を輸送)を攻撃して台湾上陸を妨害、米軍の作戦行動を助けることができる。

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