「台湾に一番近い島」で今起きている驚くべき事態 ミサイル配備なのに、住民避難先は「公民館」

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外間はその後3回、町長選挙で再選を果たしたが、自衛隊基地ができれば隊員とその家族で人口が増え、過疎化に歯止めがかかるとの論法を用いた。つまり、国に向けては安全保障、町内の有権者に向けては地域振興と、その理由を使い分けることで自衛隊基地を誘致したのである。

その結果、与那国島の人口は基地誘致前の1500人から1700人に増えた。ミサイル部隊が配備されれば、さらに40人から50人程度増加することになる。とはいえ、そのことが「中国のエスカレーションを招き、島全体が標的にされるかもしれない」というツケとなって回ってきている点も無視できない。

「いつ攻撃されるかわからない島で生活しようと考えたり投資しようと思ったりする人がいますか? いませんよね。今はまったく将来像が描けない状態です」

住民説明会すら開かれていない与那国島。前述した嵩西氏の言葉は、島に暮らす人々の率直な思いを代弁しているかのようである。

衛隊のレーダー群
与那国島内、イランダ線という林道沿いに立つ自衛隊のレーダー群(写真:筆者撮影)

この思いは、今年春、大規模な自衛隊駐屯施設が完成し、地対艦ミサイル部隊や地対空ミサイル部隊が配備される石垣島(沖縄県石垣市)の住民にも共通するものであろう。

防衛体制の強化前に急がれる住民避難対策

与那国島など先島諸島をめぐるもう1つの懸念は、馬場氏が指摘した住民避難の問題である。

与那国島では昨年11月30日、弾道ミサイルを想定した初めての避難訓練が実施された。ただ、避難先が特に防衛設備もない公民館であったこと、島外へ避難させるには4日から5日もかかる試算が示されたことなど、多くの課題を残した。

何せ、町役場で住民避難を取り仕切っているのは防災担当の課長1人である。町が主体では多くのことは望めない。糸数町長は、筆者の問いにこのような懸念を口にする。

「ロシアに対するウクライナとは違い、与那国島の場合、避難ルートは海路と空路しかありません。海路は石垣島までフェリーで4時間かかり、空路も飛行機が小さくて1つの便に50人しか乗せられません。国には大型船が入れる港湾と大型旅客機が離発着できる空港の整備をお願いしたいです」

ウクライナでは、地下シェルターが多くの市民の命を守った。中国の侵攻に備える台湾も、シェルターを全土で10万カ所以上設置している。

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