「台湾に一番近い島」で今起きている驚くべき事態 ミサイル配備なのに、住民避難先は「公民館」

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町側は台湾有事に備え、町民に「島内避難と島外避難のどちらを希望するか」を聞き、政府に対してはシェルターの設置を求める方針だ。政府も、先島諸島の自治体で有事を想定した図上訓練を行う予定だが、ミサイル部隊を配備するのであれば、何よりも早く、与那国島をはじめとする先島諸島の人々に、どのようなミサイルを配備するのか(沖縄防衛局は反撃能力を持つミサイルではないと説明)を正確に説明することが必要だ。

そして住民の避難対策、さらには台湾から避難してくるであろう人々(約2万人いる在留邦人も含む)の退避ルートや、避難場所を確保することも急務になる。

防衛装備産業衰退も深刻な課題

先頃、アメリカが、地上発射型中距離ミサイルの在日アメリカ軍への配備を見送ったと報道された。これは、日本が、アメリカ製のトマホークを約500発購入してくれるのに加え、現在は約200キロという「12式地対艦ミサイル」を改良し、射程距離を1000キロ程度まで伸ばして1000発保有することを踏まえたものだ。日本はそれらを沖縄本島を始め、先島諸島に配備すると踏んでのことである。

与那国島では町民の意見が2つに割れ、石垣島では市議会が「長距離ミサイル配備は認めない」とする意見書を可決しているが、数年先には配備される可能性がある。

仮に配備されるとすれば、巨額の税金を投入したり住民を不安に駆り立てたりする犠牲に見合うものを配備する必要があるが、想定される「12式地対艦ミサイル」1つとっても、性能向上は容易ではない。

日本には、紛争地域への武器輸出などを禁じた「武器輸出禁止三原則」という縛りがあるため、防衛産業の衰退が深刻化している。過去5年間で完成品を輸出できたのは、三菱電機の管制警戒レーダー1件(フィリピンへ技術移転)のみで、自衛隊しか顧客がいない防衛産業は、アメリカなどの最新鋭の装備品との過酷な性能競争や価格競争にさらされているのだ。

元自衛隊陸将、渡部悦和氏はこう嘆く。

「例えば、隣の韓国は国を挙げて防衛産業を後押しし、巨額の補助金も出しています。しかし、日本には国を挙げての成長戦略がまったくないのです。企業にとっては、技術開発費がかさみ利益率が低いので、撤退するのは仕方がないことです」

事実、コマツや住友重機械工業といった大手メーカーが、近年、相次いで防衛装備品の製造を打ち切っている。政府は財政支援に乗り出す方針だが、復活は簡単ではない。

反撃能力保持のため、アメリカ製のトマホークを大量購入するのはいいが、潤うのはアメリカだけで、日本の防衛装備品メーカーには何のプラスにもならない。ウクライナがロシアの侵攻を食い止めるため、アメリカやドイツなどから戦車をはじめ武器の供与を受けるのとは訳が違うのだ。

こうして考えると、防衛費増額については2027年度以降の増税の是非を問う前に、もっと早く議論し解決すべき課題があると言わざるをえない。

幸い、中国の習近平指導部は「ゼロコロナ政策」への不満解消や経済成長率の鈍化といった国内問題を優先させなければならない事態に直面している。ウクライナ戦争の成り行きや、来年に迫った台湾総統選挙、アメリカ大統領選挙の行方も見極める必要があるため、ここ1年から2年は台湾統一には動き出せない。この間に、政府は増税以外の課題にできる限り改善を加えておく必要があるだろう。

清水 克彦 政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師

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しみず かつひこ / Katsuhiko Shimizu

愛媛県生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。在京ラジオ局に入社し政治・外信記者。米国留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)など多数。

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