性的マイノリティと共に生きる、新宿の牧師 毎週日曜日は、会議室が教会に早変わり

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なぜ、わざわざ新宿に教会を? 話し上手で、牧師として既存の大きな教会で働くこともできたはずだが、中村さんの希望は、ごくシンプルだ。「LGBT(性的マイノリティ)やエイズの患者さんたちと一般の人が共に祈る教会を作りたかったのです」。中村さんのパートナーもまた、男性である。交際はもう13年以上になる。

2008年には新宿の教会で結婚式を挙げた。「これから自分が見ていく風景を、相手にも見てほしい」と思ったからだ。式の写真を見せてもらった。会場には、青いカーテンと白い花。清潔感のあるインテリアに、ふたりの笑顔が映えていた。

結婚後にひとつ設けたルールはクリスチャンらしい。「毎朝、一緒に聖書の一節を読むこと」。購読しているクリスチャン向けの雑誌に、その日の一節が書かれている。一緒に住んでいた時期は一緒に読み、別々に住んでいるときもお互い、毎朝同じ一節を読んでいる。後になって、LINEで「今日の聖書のことばは、あなたに向けて語られていたね」と話し合うこともある。

2014年春の「東京レインボープライド 2014」(パレード)に参加する中村さん

ふたりは今、都内のマンションの隣り合った棟に住み、お互いの合鍵を持っている。「このくらいの距離感がちょうどいい」と中村さん。

前はもっと離れたところに住んでいたが、同い年であるタレントの飯島愛さんが孤独死したのをきっかけに、近くに住むことを考えた。「遠すぎると、いざというとき、駆けつけられませんから」。

Aさんは自分の家族に、中村さんのことをカミングアウトしていないから、同居しないのは、Aさん家族への配慮もある。ふたりとも食事や旅行が趣味で、一緒に出掛けるのも楽しいし、お互いがひとりの時間を持って、後でその経験を共有するのも、また別の楽しみがある。

不安もある。結婚式を機に公正証書を交わしたが、パートナーが突然、大ケガをしたとしても、治療方法などについては互いに意思決定できる立場にないからだ。今の日本には、同性カップルに法律婚と同等の権利を保障する仕組みがない。どれだけ長く連れ添っても、どれだけ深く理解していても、その関係はいざというときには守られない。

それでも「結婚」したいと願う同性カップルの結婚式を、中村さんは、牧師として執り行う。前述したNYの教会だけでなく、日本国内でも、自分の性的指向を教会や牧師に告白したところ「もう教会には来ないでくれ」と言われた人たちが大勢いる。そういう人を受け入れたい、と中村さんは願っている。

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