GPIF改革は間違っている 日本株を買う過ちと、ガバナンスの本質

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説明責任を緩和することにより、いわゆるベンチマークも、アセットアロケーションも、大枠は決めておくことにより、信頼を担保すると同時に、信頼していれば、柔軟に、現実の運用環境の変化に応じて、適切に対応する自由を運用者が得られることになる。時価のある資産に限定されなければ、より高いリターンが得られる。

株式であれば、上場され、時価があり、流動性があることにより、そのメリットがあり、多くの運用者がそれを好んで買うために、常に割高になっているから、それを犠牲にすれば、その分のリターンが得られる。だから、運用の改善とは、日本の上場株を買うこととは違うのである。

このような運用を可能にするのが、GPIF改革であり、ガバナンス改革なのである。そのためにはまず、目利きの能力を高め、そこにエネルギーをまず投入する必要がある。次に、国民の信頼および信認を得るために、時間をかけて、相互理解を深めることである。そうであれば、リーマンショックのような暴落が起きたときでも、その瞬間に、やはりリスク資産の運用は危険だ、ということで、もっともチャンスであるときに、売ってしまうということが起きない。それを可能にするのは、GPIFは闇雲にリスクをとろうとしているのではない、短期の功績を焦って運用しているのではなく、長期に渡ってリターンを向上させるためにやっているということを共通認識として持つことが必要である。

そのためには、国民の真のリスク許容度を国民自身に認識させ、明示的に自己で納得させることが必要であり、このプロセスは、困難だが避けては通れない。
さらに言えば、短期に右往左往することは、長期投資に置いては最悪の運用行動であり、改革は必要だが、時流に流された改革は最悪である。

真のGPIF改革に必要な視点

最後に、GPIFを日本の成長戦略として議論することは間違っている。日本経済を活性化させるために、年金を運用しているのではない。日本の株価を上昇させるために、運用しているのでもない。あくまで、国民の年金資金を増やすために運用しているのである。それ以外の目的は一切排除すべきである。

したがって、日本経済に資するのであれば、それは望ましいが、あくまで結果であって、目的ではない。そして、現状ではホームバイアス、つまり、自国の資産に配分を傾けすぎるという典型的なひずみが存在しており、それは日本国債に偏っているのは最も大きなひずみであるが、同時に、日本株式と海外株式とがほぼ同じぐらいというアロケーションは第二のホームバイアスであり、世界のGDPの1割弱の日本経済、日本市場であれば、それに応じた配分をするべきであり、リターンを上げるチャンスは、日本にもあるが、世界中にはそれ以上にあるのである。

当然、リスク資産とは株式だけではない。本来であれば、時価や流動性をそれほど重視しなくて済むというメリットのある長期運用の年金資金であれば、安定した収益が継続的に上がる、不動産やその他のアブソリュートといわれる運用手法を積極的にとるべきである。

GPIF改革は重要であり、これまでも多くの制約条件がありすぎ、ベストな運用が実現できていなかった。今回、改革を行なうことは素晴らしいことである。だからこそ、改革は、冷静で、長期を見すえたものにしなければならない。
 

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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