GPIF改革は間違っている 日本株を買う過ちと、ガバナンスの本質

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今回の議論ではカバーできないが、そもそも公的年金が必要か、という議論もありうる。各個人で私的年金を積み立てる、つまり、自分で証券会社や銀行で金融商品を買っても良いし、生命保険会社などで年金商品を買ってもいいのではないか、ということだ。

これは、個人に任せると、つい使ってしまい積み立て不足になり、実際に老後に資金が必要なときに十分な貯蓄がなく、また収入もないため、生活保護に陥ってしまう人々の割合が高くなってしまう。これを防ぐために公的年金を整備するということだ。政府が家父長的な役割を果たすわけで、したがって、家父長制度が実質的に存在し、親族が物理的、金銭的面倒を見るのであれば必要がない。逆に言えば、そのような制度が崩壊したために、社会保障を親族や共同体ではなく、政府が担うようになってきたのである。

しかし、生活保護的なものだけ残して、残りは私的年金へ移行すべきだという議論もありうる。今回はこれは議論しない。公的年金の制度は存在しており、制度廃止の議論をするとしても、当面は公的年金制度も、その中で生じてきた積立金は残るからであり、その積立金が残る以上、その運用は必要になるからだ。

個人で運用すべきか、政府に委ねるか

したがって、ここでは、個人で運用をするべきか、政府に委ねるか、という問題になる。

まず、個人で自己運用をする場合、つまり、自分で株式と債券、不動産などの資産配分を行い、株式などの銘柄を自分で選ぶということである。これは、あまり一般的ではない。多くの個人は、証券会社や銀行、信託銀行などに行き、アドバイスを受けながら、それらの金融機関の販売する金融商品を買うことになる。これらの金融機関も自身で運用している場合もあれば、運用会社の金融商品の販売代理店になっている場合がある。

このような運用方法の何が問題か。それは、個人は、運用に関してはとても愚かであるだけでなく、愚かでなくとも儲けることができないという問題である。

つまり、これは日本に限ったことではなく、投資信託大国の米国でも同じであるが、ほとんどの投資信託は儲からない。手数料まで勘案すると、継続的に個人投資家にプラスのリターンをもたらし続ける投資信託(ファンド)は、一つもないという実証研究の結果もある。これには二つの理由があり、継続的に、毎年プラスのリターンを上げる投資信託はほとんどない、ということが一つ。勝つ年もあれば負ける年もあるということである。

しかし、長期的に見れば平均的には儲かるということであれば、それは問題にならないのだが、第2に、手数料が長期には大きなものとなりすぎることがあり、これが大きい。長期的に見ると、銀行預金や米国や日本の長期国債を買い続けるのに必ず負けてしまうのだ。したがって、個人投資家万人にお勧めできる運用方法というのは存在しないのだ。

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