「ちきゅう」はどうやって掘っているのか 海洋研究開発機構の地球深部探査船に行ってきた②

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これは、ライザー掘削と呼ばれる石油掘削ではよく使われている手法である。それを科学掘削でも可能にしたのが、ちきゅうなのだ。では、どうやってそのパイプ群をコントロールしているのか。作業の現場に潜入する。

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多くの現場を見学してきたが、今回は過去最大の重装備だ

このシリーズの取材では、ヘルメットを被ることに慣れた。ないと物足りないくらいになっている。ところが今日は重装備だ。ヘルメットのほかに、つなぎとゴーグル、安全靴に軍手の着用も義務づけられている。アクセサリーの類は禁止だそうだ。

フル装備でいざ、現場へ。雨が激しくなってきた。防水加工され、反射テープの貼られたヤッケを羽織る。現場魂に火がつくぜ。

デカいデカいと思っていたやぐらは、真下から見上げるとなおデカい。このやぐらは、1250トンを吊り下げられるという。

1250トンとはいかほどか。「東京ドーム50個分ですよ」「えっすごいですね~」などという会話を、JAMSTECの名物研究者高井研さんと同行者が繰り広げているが、高井さんにからかわれていることに気がついた方がいい。陸上自衛隊の最新鋭戦車10式が44トンだから、それが57台分ぶら下がっても大丈夫ということだ。

やぐらにパイプを吊り下げて、海底のさらに深くへと下ろしていく掘削機を操作する部屋がある。あこがれのドリラーズハウスだ。パイプの動きが間近に見られる位置に、ガラス張りの小屋が設置されている。招きに応じて、足を踏み入れる。やった! 実は、本当に入れてもらえるのだろうかと、ドキドキしていたのだ。

操縦席は2つあり、左がメインドリラーの席、右がアシスタントドリラーの席である。メインのドリラーは外の様子はもちろん、並ぶ画面を見ながら加重や回転数や加圧状況を見ながら、ジョイスティックやボタンで操作しながら掘り進めていく。

気分は完全にアムロ・レイ

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巨大な重機を目の前にすると、自然と緊張するものだ

ドリラーの席に座らせてもらう。座り心地のいいシートはレカロのものだ。気分はガンダムを操縦するアムロ・レイである。着ているつなぎが赤なので、ザクに乗ったシャア・アズナブルではないかという指摘もあろうし、それもまんざらではないのだが、ここは正義の味方でいたい。

ともあれ、これまでにも戦車や大型船舶などいろいろな特殊なシートに座ったことがあるのだが、そのなかでももっとも興奮してしまい、子供のように黙りこんでしまった。きっと眼はうつろだったであろう。

いったん掘り始めたら、ドリラーは12時間交替で掘り続ける。ドリラーの傍にはツールプッシャーと呼ばれる作業監督者が貼り付く。

今日はツールプッシャーの小山輝之さん、ドリラーの谷 和明さんがドリラーズハウスにいる。やはり、プロはつなぎの着こなしからして違う。つい、聞いてしまう。どうしたらそういう職業に就けるんですか、今からでも間に合いますか。

答えは「まず、日本海洋掘削に入社すること」であった。JAMSTECは掘削作業をこの会社に委託しているのである。ちきゅうのツールプッシャーは小山さんのほかに3人いて、その全員が外国人。会話は当然英語だが、あとは「簡単な計算ができれば大丈夫です」と謙遜する。その情報、40年前に知りたかった。あ、その頃ちきゅうはまだないか。

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