ハーバード生が直面する「あなたは誰?」問題 「資本主義の士官学校」が教える真実

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あなたはどんな世界に生きているのか?

「自分を理解する」と同じくらい重要とされるのが、「世界を理解する」ことだ。HBSでは、さまざまなバックグラウンドを持つ学生を集めることで、学生一人ひとりの世界観を広げる機会を作っている。

たとえば、MyTakeと呼ばれるイベント。ここでは、ユニークな体験を持つ学生が、自身の体験を通して学んだことを数百人の前で披露する。先日のセッションでは、私の友人であり、インド系アメリカ人のアニータ(仮称)が自身の体験を披露していた。

アニータは、HBS入学前は中東にある世界最大規模のソブリンウェルスファンドで働いていた。しかし、インド系女性であるアニータが、政府機関の男性職員と口論したことがねじれて、ついには憲法侮辱と職務妨害の罪で起訴されてしまった。

彼女は無実を主張するが聞き入れてもらえず、刑務所行きが現実味を帯びてきた。同僚に相談したところ、こんな言葉が返ってきた。「あなたが悪くないのはみんな知っている。しかし、あなたが間違ったのは、この国の役所で男性職員と口論したこと。女性でありインド系であるあなたが、男性の政府職員に逆らってはいけないのよ。どんなに自分が正しかったとしても、そこは平身低頭で謝って、許しを請うしかないのよ」。

結果的にさまざまな方面の協力を得て、無罪の判決を得ることができた。しかし、アニータはこの体験により、自分が属する「インド系女性」という分類が社会的弱者であることを、痛いほど思い知ったという。

アニータはスピーチを次のように締めくくった。「振り返ってみると、社会的不平等はつねにそこにあった。しかし、いざ自分の身に降りかかるまで、社会的不平等は当たり前で仕方ないことだと思っていた。そしてあの体験がなかったとしたら、私は今でもそう思っているはず。怖かったけど、非常に大切なことに目を向けさせてくれた貴重な体験だった」。

HBSではこのような個人的な体験も臆せず共有する文化がある。それは、自分の体験が誰かの世界観を広げることを知っているからだ。クラスルームでも、元特殊部隊のクラスメートが自分の部下を亡くした体験や、国際機関勤務のクラスメートが難民キャンプで目の当たりにした壮絶な状況を発言する。会社をクビになった経験も、家庭不和の中で育った経験も、クラスメートにとって有益と感じたら共有する。

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